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「優しいお方なんです! 少々考えすぎてしまいがちなだけです」
「俺はあいつの思慮深かさには興味がないな。あとなぁ、執事。俺はあいつ、好きじゃない――が、一途で行動力もあるという意味では悪くはないと思うぞ。侯爵家の執事を代々務める家柄なら、あいつも貴族なんだろう? 人間同士の貴族制度としても無しではないだろう。俺には興味のない事だが」
「……一途」
一途までしか、聞いていなかった。ロビンは、一途らしいと、心の中にしっかりとメモをした。
「人間の中でなら、現時点まででの俺の最推しは、ミネロムだな。教師」
「? ミネロム先生は、恋愛の枠組みに入っておりません。相手が私を好きでないと」
「いや、おい、たった今、お前らデートしてきただろうが」
「え!?」
湖を眺めるというのが、デートだっただなんて……。それとも、召喚獣の世界にも似た風景があるというし、召喚獣限定のデートスタイルなのかもしれない。
「断言して、あの教師はお前を好きだが、立場と身分で自制しているだけだろう」
「本当ですか!?」
「うん。よって、枠組みとしては、許婚・先輩・執事・教師――と、俺だな。もう一度、じっくり考えてみろ。誰が一番、優しい?」
「最近みんな優しいんです」
「俺が来てからだろう?」
「ええ。クライのおかげかもしれません」
「――最初から一貫して優しい俺。そんな俺といると、周囲までお前に優しくなる」
「優しいイケメンだらけなんて、最高です」
大きく何度も私が頷くと、吹き出すようにクライが笑った。
「誰か一人選べと言われたら、誰が良いんだ? もう一回、よく考えてみろ。誰が、一番好きだ?」
「ヴォルフ様です」
「即答か――そこは、少し考える素振りを見せた方が、色っぽいぞ」
「そうなのですか?」
私の言葉にクライが小さく頷くと、片目を細めて笑う。
「ポイントの話に戻ると、あの教師なら、実力が確かだから召喚獣としてオススメだ」
「ヴォルフ様は、魔術が使えるんです」
「召喚獣が使えるんだから、人間は別段魔術を使う必要がないだろう、本来は」
「それは、そうですが……」
「あの教師ならば、ヴォルフと同レベル以上の魔術を使える召喚獣をいくらでも喚べるだろうな」
「……別に、力や知識でヴォルフ様を好きになったわけではないんです」
「どこが好きになったんだ?」
「そ、それは」
イケメンだったからである……。十三歳のあの日――それまで家族以外に、あんなにもイケメンがいるとは思わなかったお見合いの日……今でも鮮明に覚えている。
「なんとなく、何を考えているのか伝わってきたから言わなくていい。当ててやる。顔か。イケメンだったんだな、お前の中で」
「その通りです……」
力なく私が頷くと、お腹をかかえてクライが笑い始めた。
「極端な話、俺とヴォルフのどちらがイケメンだと思う?」
「顔のつくりは、クライです」
「『は』、というのは?」
「仕草や眼差し、瞳の動き、気配、ヴォルフ様は全部好きです」
「俺は?」
「まだそこまでじっくり見た事がないので」
「じゃあもっと俺を見ろ」
その言葉に素直に視線を向けると、今度はクライが優しい顔をした。
「ヴォルフは、立ち位置が有利すぎる。許婚だからな――ま、だからこそ楽しめそうだな。そういう意味では一番面白そうだ。他はなぁ、それこそ物理であれば、教師は楽しそうだが、自分からは出てこなさそうだしな。先輩……先輩は、どこまで根性があるかだな。エリオットが力を貸したら面白そうだが。執事は一番身近だったポジションを俺に盗られて悔しそうなのを見ていれば、まぁまぁ面白いか」
そしてつらつらと小声で何か言ったのだが、私にはあまり意味が理解できなかった。
「『楽しめる』や『面白い』というのは、どういう事ですの?」
「ん? お前をめぐる恋愛ゲームに、俺もそろそろ参加したいと思ってな」
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