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夕食後、ロビンに送られて、私とクライは、私の部屋に戻った。私は寝台に座りながら、長椅子に寝そべったクライを見る。道中では、ロビンが一途なのか観察してみたが、見慣れた仕事風景しか広がっていなかった。
「イリス」
「なんです?」
「ベッドに行っても良いか?」
「?」
既にこの部屋には、クライのベッドが存在する。ソファからの移動は、自由だ。
「どうぞ?」
「――お許しが出たな」
「え?」
するとクライは、自分のベッドではなく、私のベッドに近づいてきた。そして首を傾げた私を覗きこんだ。
「朝、腕枕をしながら目覚めのキスをするためには、一緒に寝ないとならないからな」
「え」
先ほど言いかけた私の空想を、クライが口に出した。他者から聞くと無性に恥ずかしくなって、私は赤面しそうになった。クライが私の隣に座る。距離が近い。
「本来、一緒に寝るものだし、そもそも寝台を二つ用意する必要が無かったんだ」
「ま、待って下さい、クライ。男の人と同じ寝台で寝るのはダメです」
「お。ちゃんと俺を男だと認識してるじゃないか。偉いぞ」
「……っ」
「何がどうダメなんだ? ん?」
私の顎の下に指を添え、クライが悪戯っぽい目をした。イケメンすぎて目が離せないというよりも、その温度に緊張しすぎて体が硬直した。クライの顔が近づいてくる。私の頭の中は大混乱状態だった。
「ほら」
そんな私を抱きしめて、クライがそのまま寝台に横になった。すると少し位置が代わり、私は完全に腕枕をされていた。
「どうだ? 腕枕の感想は?」
「想像以上に寝心地が悪そうです。だって、硬いんだもの、腕が」
「現実なんてそんなものだ」
「けど、お父様とお母様は、腕枕で眠っております。子供の頃に見ました。今もうっかり朝早くに伺うと、二人は腕枕中です」
「イリス、それはだな、腕枕が良いのではなくて、くっついていたいだけなんじゃないか?」
「え?」
「そういう部分を、一つずつ、俺は優しくお前に教えてやる。だからとりあえず、今夜は一度、俺の腕枕で寝てみると良い」
「それはダメです。クライは自分のベッドに行ってください」
「どうして?」
「それは……」
チラチラとヴォルフ様の顔が浮かんで、罪悪感が押し寄せてくるからだ。
「――召喚獣だから寝ても良いと思わせておいて、後で男と認識させたほうが、効率が良かったな」
「え?」
「あ、いいや、なんでもない。そうだな、いきなり悪かった。俺は自分のベッドに行く」
そう言うと、クライが私から離れて、ベッドから降りた。
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