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【17】護衛
それから私達は教室に入った。その時、不意にクライが笑った。
「なるほど、考えてもみれば、高位貴族が護衛をつけないわけもないな」
すると先生が振り返った。
「生徒は等しく、教師は皆守っている」
「――その中でも、『特別な』教え子は、護衛対象なんだろう? 恐らくヴォルフの側が雇ったんだな」
「……」
「本屋にも偶然いたんじゃない。護衛だ。湖にあっさりとラヴェンダル侯爵家が連れ立って行かせたのも、お前なら安全な護衛だと正確に伝わっていたからか。そうじゃなければ、侯爵家の馬車には、あっさりとは乗れないだろうな」
「……」
「なるほど。屋敷にロビンがいて、学院と外にはお前がいて、護衛体制は万全だったというわけか。ヴォルフから見れば」
「……」
「だよなぁ。信頼している執事と教師兼護衛が、まさか自分の未来の奥さんに惚れるとは思わないもんな」
「――だから違うと言っているだろう。俺はイリスに対して、生徒以外の感情はない」
「同じ男としてというのは?」
「一般論だ」
「――本屋。召喚獣に雨を避けさせれば良かったのに、わざわざイリスの傘に入ったのは見送るためだろう? 安全な場所まで。現に、お前がいなかったら大変な騒ぎだっただろうな」
それを黙って聞いていた先生は、それから私を見た。
「イリス嬢」
「は、はい!?」
「いつになったら、お前は、自分の召喚獣に、『黙れ』という指示を出すんだ?」
「え」
「俺は先程からそれを期待していたんだが。召喚獣の戯言に付き合うな」
「は、い! クライ、お願い、黙って!」
私がそう言うと、クライが吹き出すように笑ってから、窓の外に視線を向けた。
――先生は、護衛だという言葉を否定しなかった。
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