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【5】クライがいる一日
その後――人型召喚獣は人間と同じ食事をとれるそうなので、クライを家族に紹介しながら夕食にした。
今日は父も早く帰ってきて、弟も駆けつけ、兄もいるし、母もいる。母と非常に仲が良い祖父母も遊びに来ていたため、大人数である。家族からの質問攻めに、クライは和やかに答えてくれた。私は安心した。
そして――夜。個人的に喚びだした召喚獣とは、基本的に主人は同じ部屋で眠る。
私の部屋の広さならばそれは余裕で可能なのだが、執事のロビンが食後に言った。
私達を部屋に送ってきた時だ。
「クライ様のお部屋はお隣にご用意させて頂きました」
するとクライがそれまでの和やかな様子を消して、面倒くさそうな顔で腕を組んだ。
「召喚獣は主人と同じ部屋で眠るものだ」
「存じております。ですが貴方は人型です」
「姿は、な。しかしながら、俺は召喚獣である。それも高位の召喚獣だ。主人の部屋に通されないというのは、非礼じゃないのか? 人間側の」
「――……失礼致しました。私にとってもお嬢様は主人であり、思うあまりに出すぎた口を。失礼致します」
ロビンは淡々とした声でそう言うと、テーブルに紅茶のポットを置いた。
そして右のポケットになぜなのか手を一度入れた。
いつもならば淹れてくれるのだが、この日は乱暴にそれらを置いた後、すっと出て行ってしまった。なんだかいつも以上に冷たく思えたが、クライに緊張していたのだろうか? 人型の召喚獣とは、それだけ珍しい存在なのである。
「人間って面白いな」
二人きりになった室内で、ソファに堂々と座って長い足を組みながら、クライが言った。
「どういう意味ですの?」
「怒りで中身を沸騰させて、カップを融解させる火魔術の使い手。攻撃用フォークを右ポケットに常備している執事」
「何のお話ですの?」
ちょっと意味がわからなくて、私が首を傾げると、クスクスとクライが笑った。
「そういえば、肩を揉んで欲しいんだったか?」
「え? よろしいんですの?」
「――本当に肩だけでいいのか?」
「できましたら、首と背中もお願いしたいですわね」
「そうじゃなくて、こう、もっと色っぽい――……ああ、そうだな、見た目は淑女だが、中身は子供らしい」
「まぁ! そんな事はありませんわ」
「そうなのか? お前に愛を気づかれない連中が、俺は不憫だ。が、俺が一番愛してやる」
目を瞠ってしまうような、グッとくる微笑でそう言われたから、私は顔を見ることに夢中で、何を言われたかはよく聞いていなかった。その後、肩を丹念に、首も背中も揉んでもらった。そして私はベッドで、クライは長椅子で眠った。明日、もう一つ寝台を運んでもらおうと決意した夜だった。
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