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2-1の王子様
宙を舞う埃さえも自身を彩る光の粒に変えてしまう。そんな人間を、黒田隼人は初めて見た。
放課後の空き教室。夕焼けが教室を橙色に染め上げる中で、1人の青年が読書をしていた。開け放った窓から吹く風が、柔らかな髪を揺らす。長いまつ毛を伏せて文字を追う姿は、驚くほど絵になっていた。映画のワンシーンのような光景を前に、隼人は声をかけるのも忘れて見つめる。
不意に青年が顔を上げた。大きな瞳が入口で立ち尽くす隼人を捉える。青年は驚きで目を瞬かせたのも束の間、次の瞬間には柔らかく微笑んで見せた。読んでいた本に栞を挟むと、にこやかに話しかけてくる。
「やあ、黒田くん。ここに人が来るなんて久しくなかったから、ちょっと驚いちゃったよ。どうかしたの?」
穏やかな言葉に隼人の覚悟が決まった。つかつかと青年の前まで歩み寄ると、意を決して切り出す。
「──白川優。同じ男として、お前に頼みがある」
「頼み?」
「ああ」
隼人は緊張を誤魔化すために、大きく深呼吸をする。その様子を優は静かに見守っていた。恋人の甘い囁きを待っているかのような、極上の笑み。この笑みで学校中の女子を虜にしてきたのかと思うと、嫉妬で気が狂いそうになる。しかし、そんな彼だからこそ適任だった。
全てのプライドをかなぐり捨てて、隼人は優に勢いよく頭を下げた。教室中に響き渡るような大声で懇願する。
「頼む! オレを清水さんに振り向いてもらえるような、一流のモテ男にしてくれ!!」
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