エルトナム城と呪いの大穴

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講堂から出た先には、左右に二階へ上がるための階段と長い通路がそれぞれあった。 左側の長い通路には赤色の絨毯が敷かれており、右の通路には黒色の絨毯が敷かれていた。 ガイアは赤色の絨毯が敷かれた通路を目指し始め、アレフたちもそれに付いて行く。 ガイアは通路の入り口に着くと、突然壁に備えられていたランタンに明かりがともった。 これもアーティファクトの一種なのだろうか、とアレフはすこしばかり考えては、後でマースに聞こうと思うのだった。 長い通路には大きなガラス窓が庭側に張られており、そこから差す月の光と壁に飾られたランタンの光に照らされながらアレフたちは長い廊下を突き進む。講堂側の壁にはいくつか扉があり、扉の前にあるプレートには「来賓室」「休憩室」と書かれており、厳重にドアノブに鎖をかけられた扉には「AF保管庫」と書かれていた。 「AF保管庫って何だろう」 アレフは思わず疑問を口にした。 「そこはアーティファクト保管庫のことだよ。略してAFって書いてあるだけさ」 その言葉を拾い上げたガイアは説明した。 アレフは「へぇ」と納得しながらも長い通路の角を曲がり、先ほどと同じような見た目の通路が続いていた。 しばらく赤い絨毯の敷かれた道を歩いていると、右手側に屋外に出る通路があり、ガイアはその道を歩き始め、アレフたちも付いていった。 八月の風はアレフたちの肌を撫でては芝生は互いに擦れて小さく音をたてた。 風の通りがよい通路には芝生が生えており、屋根と手すりのみの通路となっていた。 先に進んでいくと、扉の前には「赤の寮」と名前つけられたドアプレートが豪勢に飾ってあった。 「さあ、ここが君たちの寝る場所さ。入った入った」 ガイアは扉を開け中に入るよう促す。 ぞろぞろと一年生たちが入っていった寮内の一階はマクレイン孤児院よりも広かった。 テンションの上がる一年生たちに「落ち着いて」と言うと、ガイアは一年生たちが見える位置まで移動した。 「ここは談話室で基本的に自由にくつろいで構わない」 談話室にはソファーやテーブル、ボードゲームなど置いてあった。 「左の階段が男性寮、右の階段が女性寮になっているので、くれぐれも間違えないように」 「そうです! 間違えたら、私が許しません!」 突然誰かが大声で叫んだ。 すると、ガイアの背後から甲冑を着た半透明の首無し騎士が、自分の頭(鉄仮面)を持ちながら勢いよく浮遊しながら辺りを駆け巡って現れた。 女の子が一人絶叫し、ほかの生徒も思わず腰を抜かしていた。 アレフも驚き、その場で硬直してしまう。 「キンブレ―、脅かしすぎだ。ただでさえ、君は幽霊なのだから」 「おお、そうでした。ガイア少年。私、幽霊でしたわ」 ガイアが幽霊を諭すように言うと、納得するように騎士は落ち着きガイアの横に立った。 「大変失礼しました。一年生諸君。私は元赤の寮の騎士、キンブレーです。以後お見知りおきを」 そう言ったキンブレーは手に持っていた頭を、腰を抜かして青ざめている今にも気を失いそうな男の子に向かって放り投げた。 ガタガタ震える男の子は投げられた頭を反射的に捕えようとするが、もちろん触れないので失敗する。 思わず辺りを見渡す男の子だったが、騎士の頭が「私、幽霊なので触れないのですよ」と言いながら、男の子のお腹からひょっこり顔を出し、男の子は泡を吹きながら失神した。 「あー、キンブレー?」 「おっと、ついうっかり」 キンブレーは男の子の腹にある自分の頭を回収した。 「私はこの寮の番人です。君たち男の子が女性寮に入らないよう、見張りをするのが私の使命です」 「そういうこと。彼はここの生徒だったんだけど、事故で亡くなってしまってね。偶然あった魂入箱に入ってしまって、今の彼がいるって感じ」 「そういう感じです」 ガイアの解説に納得するようにキンブレーは持っている頭を申し訳程度に頷かせて見せた。 そんな彼に対して「あなたが女性寮を覗く可能性は?」と質問されると、キンブレーは「昔覗いた時に呪いを掛けられてしまってね、談話室と男性寮しか入れないの」と悲しそうに言ったが自業自得の話である。 「倒れた子は俺が運ぶとして、これから先のことについて簡単に説明する」 倒れた男の子を横目にガイアは話し始める。 「まだ八月の半ばあるので、授業は行わず、代わりに赤の寮の親睦会を開く。二年、三年と共に学院案内や野外活動などをして、交友を深めてもらうのが目的だ。明日からの行動となるので、今日は荷解きをしてもらって、ゆっくり休んでくれ。ではここから自由行動とする」 ガイアが、パンっと手のひらを叩く。 みんなは「驚いた」や「心臓止まるかと思った」とか「ベネット大丈夫?」と倒れた男の子に声をかけるなどをして、それぞれバラバラに行動し始めた。 「アレフ、それじゃあ、おやすみ」 「あ、ああ、おやすみ」 エトナはあんな騒動があったのにも関わらずアレフと比べ、落ち着いた雰囲気を見せながら、右側の階段を上って行った。 アレフはその姿を見送ると一息入れ、左側の階段へ上がろうとすると後ろから声を掛けられた。 「君たち講堂の時もそうだったけド、結構お熱いネ」 アレフが後ろを振り返るとそこに立っていたのは、先ほど講堂で話していた細目の男の子だった。 「仲がいいのは兄妹だからだよ」 「あ、ナルホド。見た目が似てないからてっきリ」 細目の男の子はそう言って笑いながら謝罪した。 「君は名前なんて言うノ?」 「俺はアレフ・クロウリー。で、あっちはエトナ・クロウリー。君は?」 「俺はリィン・マオ。極東の方から来たネ」 「極東って、日本とか?」 「ンン? 日本っテ?」 アレフとリィンは互いに自己紹介を済ました後、噛み合わない話をしながら一緒に男性寮の部屋まで行った。 男性寮の部屋は複数存在しており、一年生が使えるのは二階の部屋のみで、三階四階はそれぞれ上級生が使うことになっていた。 二階の部屋の一室に入ると五人分のベッドとタンスが置いてあり、リィンはベッドに飛び込み「僕はここにすル」とはしゃいだ。 アレフも隣のベッドに腰掛けると、柔らかな触りに心地の良い質感に、思わずにやにやしてしまう。 マクレインには申し訳ないがここのベッドは孤児院よりも気持ち良く、アレフは内心ランドルフたちに良いベッドを貰って申し訳ないと謝罪していた。   ベッドの質感に堪能していると、部屋の扉が開き、一人の生徒が運び込まれてきた。 先ほど倒れた男の子だ。 ガイアに抱えられながら運ばれると、ベッドにそっと寝かされた。 「ここって、まだ誰も使ってないよね?」 アレフとリィンはガイアに頷くと「そう、ならここで。あ、ちなみに廊下の先の部屋がシャワー室になっているからね」と言うと、そそくさと部屋から出ていくのであった。 騒がしい一日となったが、こうしてアレフとエトナの騎士学院の生活が幕を開けたのだった。
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