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アレフたちが急いで決闘騎士学の教室まで行くと、既に一年生は全員着席していた。
アレフたちも席に座ると授業開始のチャイムが学院中に響き渡った。
教室の奥の部屋から短髪の白髪女性が出てくると、女性は大きな声であいさつをした。
「皆さん、初めまして! 決闘騎士学を担当するベレボア・リグルスニーです!」
大きな声でハッキリと話すリグルスニーに、アレフは先ほどのベレーのような惨劇にはならないだろうと心の中で安心した。
「皆さん、決闘騎士のことは既に知っている事でしょう。決闘騎士とは限られたアーティファクトを使って戦う、一種のスポーツであります。学院でも卒業試験として設けられているものです。……さて、厳しい話になりますが、この決闘騎士はある程度の素質によっては有利不利が存在してしまいます。皆さんには今からそれを測ってもらいましょう」
リグルスニーは手に持っていた革袋の口紐を緩めては、教壇の上に中に入っていたものをばらまいた。
教団の上には三センチ程の小さな宝石が色とりどりに散らばった。
「ここにあるのはいろんな種類のアーティファクト。そしてすべて人を選ぶアーティファクトです」
アレフは机から前のめりになりながら教壇の上のアーティファクトを見た。他の生徒もアレフと同じように見入っていた。色とりどりのアーティファクトはまるで新入生のアレフたちを歓迎するようにキラキラと輝いていた。
「これらのアーティファクトは階級でいうと、宝石級と呼ばれています。他にも誰でも扱える虹級。リーフ先生が持つ皇帝のアーティファクトは黄金級と呼ばれ、とても強力なアーティファクトになります」
リグルスニーは大きく手を叩き、机の上に目が向いている生徒たちの注目を一斉に集めた。
「これらを扱うにはまず、このアーティファクトに認めてもらうことが必要です。では、一人ずつ教壇まで来てください」
リグルスニーの言葉に教室の生徒たちはこぞって教壇の前に駆け寄っていった。
この勢いにアレフとエトナは、駆け抜けていく生徒を見ては驚いてしまう。
あっけにとられたアレフとエトナは状況の飲み込みに時間がかかり、結果として最後尾に並ぶこととなった。
「では前へ出て、アーティファクトに手をかざしてください」
生徒の一人が教壇の上のアーティファクトに手をかざす。
「何やってんだ、あれ?」
「知らないの? 人を選ぶアーティファクトは、ああやって近くに寄ることで持ち主を決めるのよ」
マーガレットが小声でアレフとエトナに話す。
教団の前に立つ生徒は眉にしわを寄せ、呻きながら次から次へとアーティファクトに手をかざしていった。
「反応があればアーティファクトは輝きだすの。まあ、良くて一、二個が普通ってところね。決闘騎士の騎士たちはそんなことないけど」
マーガレットが説明してくれると、教壇から喝采が聞こえてきた。
喜ぶ生徒の手の先には青い色をしたアーティファクトが輝いていた。
「お見事。青色のアーティファクトが反応しました。これは水のアーティファクトになります。決闘騎士の試合でも使われるほどの良いアーティファクトですよ。以後、授業ではこのアーティファクトを使うように、他の教師に言ってくださいな」
教室中が拍手と感動の声を上げていると、アレフたちも釣られて拍手する。
「では、次。ベネット!」
ベネットはリグルスニーの声におどおどしながら、教壇の上のアーティファクトに手をかざした。
生徒の中から「ベネットは、運ないからな」「もしかしたら一個も適正なかったり……」と不安がられては、ベネットはそれを聞くまいと小さい声で「お願いします。お願いします」と呟いていた。
ベネットが手をかざして間もなくだった。
一つのアーティファクトがガタガタと揺れると、それに続いて三個のアーティファクトが同じようにガタガタ揺れだしては、ベネットの顔に飛び掛かってきた。
「いたっ!」
ベネットが悲痛な声を出すと同時に、後ろに倒れてしまいまたもや気絶してしまう。
遠くで見ていた生徒は笑っていたが、教卓の周りにいる生徒は、そんなベネットを気にも留めず教卓の上を見つめていた。
「よ、四つ……」
生徒たちが口をあんぐり開けては、反応したアーティファクトとベネットを見比べていた。
「ベネットは、赤と青、緑に黄ですか……。なんとまあ、素晴らしい素質の子がこの学院に。二年前のショー・ミグルド以来です……」
教室が歓声に包まれた。
生徒たちが「ベネットは凄い」とほめちぎり、気絶したベネットを揺すっては喜んだ。
ベネットの結果に続いて、次から次へと適正検査は行われた。
アレフの隣の席に座っていたリィンはかなり前の方にいたらしく、座席に戻ろうとする際にアレフとすれ違っては、うきうきした顔で「二個だって」と言っては席に戻っていった。
「次、マーガレット」
マーガレットは教団の上に手をかざした。
アーティファクトの反応は一つ。
それでも、安堵した様子でマーガレットは席に戻っていった。
次はエトナの番だった。
リグルスニーに呼ばれ、教壇の上のアーティファクトに手をかざす。
エトナは祈りながら手をかざし目を閉じた。少しするとエトナは恐る恐る目を開いた。
エトナの視線の先には本来反応しているであろうアーティファクトの反応はなかった。
「え?」
エトナは目の前の現状に思わず声を漏らした。
もう一周、アーティファクト一つ一つに対して、丁寧に手をかざしてみる。
「なんと……」
リグルスニーは悲しい声で呟いた。
教壇の上のアーティファクトはぴくりとも反応を示さなかった。
先ほどまで騒がしかった教室は静まり返っていて、所々で発生している内緒話は、まるでエトナを嘲笑しているようでアレフには耐えきれなかった。
その騒めきの中、エトナは焦るように何度も何度もアーティファクトに手をかざしていた。
それでも反応を示さないアーティファクトにエトナの表情は曇った。
そんな表情に胸が痛くなるアレフだったが、過去にマースが発言した言葉を思い出した。
マースは「迎い入れる準備は整った」と言っていたのだ。
こんなことが起きるのに、迎え入れるなんて言葉は出てこないはずだ。
そう考えたアレフはエトナに話した。
「エトナ。後でローレンス学院長に聞いてみよう。何か知ってるはずだ」
「ええ、確かに。ローレンス学院長なら、何か知っているかもしれないわ。普通なら必ず反応を示すはずだから。たとえ、アインの人間だとしてもね」
リグルスニーもアレフの言葉を補うように付け足した。
「三限の授業が終わったら、学院長室に案内してあげて」
リグルスニーがアレフに訴えかけるように言うとアレフは頷いた。
落ち込むエトナを席に返してはマーガレットが慰めるように、落ち込むエトナの背中をさすっていた。
「例え、今は反応がなくとも鍛錬を積めば、そのうちアーティファクトが反応を示してくれることもあります。騎士となってから才能を開花させる人もいますから」
優しく微笑んだリグルスニーは教室にいる生徒に言い聞かせるように話をした。
「それでは、次はあなたの番です。アレフ」
「え?」
「当然です。授業ですから」
「はい、先生」
エトナの様子を気にかけるアレフであったが、アレフは教壇の上のアーティファクトに手をかざした。
祈るように目を閉じると、左目が少し痒くなり空いている手で強くこすってしまう。
アレフが唐突に痒くなった左目に夢中になっていると、教室中がこれまでの歓喜とはまた異なる騒めきが生まれた。
「あなた……、いったい……」
その声にアレフは目を開ける。
教室中がまたもや拍手喝采にあふれた。
アレフの目の前にあった合計十個のアーティファクトが全て反応を示し、輝きだしたのだ。
その輝きにアレフは驚きを隠せなかったが、心の内で罪悪感を覚えた。
アレフはエトナの方を見る。
エトナはアレフを見て、何とか暗い表情から笑顔を作ろうとしているが、それが難航しているのがアレフからでも分かった。
そんなエトナの姿を見て、アレフは喜んでいいのか悩みながらもなんとか笑顔を作って、教室にいる生徒たちに笑顔を見せつけた。
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