ウィルカート街へようこそ!

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マースに連れられてアレフたちは木剣のお店へと足を運んだ。 お店の中には自分たちと同じくらいの子どもがたくさんおり、もみくちゃにされながらも、マースに案内され、店の奥へと進んでいった。 奥の部屋にはガラスケースに入った剣や槍が置いており、刃先は鈍く鋭く輝いていた。この場所は先ほど子どもたちで賑わっていた木剣エリアと違い、嘘のように静寂であった。 そんな店内には一人の年老いた男性がショウケースに飾られた剣をじーっと見つめていた。 マースはその男の傍によると、大きな声で叫んだ。 「シースイ殿! マースです! ご予約していました商品を取りに来ました!」 はち切れんばかりの声量に思わず、アレフとエトナは耳を塞いだ。 だが、その声を聞いたのか、剣を眺めていた老人はマースの方にゆっくり向き直り口を開いた。 「なんて?」 「ですから! 剣を貰いに着ました!」 マースは叫びながら、老人に身振り手振りしながら話した。 やっと理解が出来たのか「おお、そうじゃった。少々まっとれ」と老人はそう言うとのろのろと、別のショーケースまで移動した。 ショーケースの鍵を開けて、中に置いてある訓練用木剣と同じぐらいの大きさの剣を取り出したのち、老人はヒイヒイ言いながら剣を抱えて、会計カウンターまで持って行った。 老人のその姿を見て耐えきれなくなったアレフは、思わず老人に駆け寄り、代わりにと剣を持ち上げた。 その姿を見た老人は「こりゃあ、すまないね」と言うと、アレフは「大丈夫だよ」とくいっと口角を上げて、カウンターまで持って行った。 すると老人はマースに向かって声をかけた。 「この子がマルクトの子かえ?」 「マルクト殿のお子様はこちらですぞ」 マースはエトナを指さした。 「そうかそうか。随分立派な男の子だの」 老人はエトナを見てそう言った。すかさずマースはエトナに説明し始めた。 「あの方はだいぶお年を取られて、今年で百五十二歳であられる。間違えてしまうのは許してほしい」 「百五十二歳?」 エトナは思わず声を上げた。 その姿を見て老人は「ほっほっほっ」としわくちゃな顔で笑った。 「お嬢ちゃん。ちょいとこちらに来てくれるかの」 老人が会計カウンターまで行くと、エトナに向かって机をとんとんと叩いた。 呼ばれたエトナは老人とカウンターを挟んで対面する。 「えー、この剣はのう、ドラゴンの牙をベースにティターンの大剣から金属を拝借し作られた刀身で非常に頑丈じゃ。そして……」 老人は剣の柄の部分を触ると「〝レベルテレ(戻れ)〟」と唱えた。 瞬く間に剣は柄だけの形になっていった。 「一度戻すと柄だけになり、そこな訓練用木剣と比べ、この状態は軽くなる」 そう言うと老人はエトナに柄を手渡した。 そしてエトナに向かって続けて話した。 「〝グラディウス・リグネウス(木剣よ)〟と言ってみなさい」 老人はエトナの目をみて、ほれと言わんばかりに目で訴えてきた。 エトナはそれにつられ、柄を見ながら「〝グラディウス・リグネウス〟」と発した。 すると瞬く間に柄だった物は木剣へと姿を変えた。 それと同時に、エトナの手にはお米の袋よりも更に重たい感覚が伝わり、すかさず両手で木剣を支える。 その姿を見た老人は、ニヤリと笑い「そのうち片手で持てるようになる」と言った。 「木剣と真剣とでは重さが違うのも、その剣の特徴じゃ。そして、先ほどの形状の剣にしたくば、一度〝レベルテレ(戻れ)〟と言った後に再び〝グラディウス(剣よ)〟と唱えれば、使えるようになる」 「凄いね。おじいちゃん」 エトナの目はキラキラ輝いていた。 エトナはその木剣を少し高く持ち上げては嬉しそうに眺めていた。 そんなエトナの姿を見て、アレフも興奮交じりにマースに問いかけた。 「俺のって、もしかしてないのかな……?」 自分にもカッコイイ剣があるものだろうと、アレフはワクワクしながらマースに問いかけた。 しかし、マースは申し訳なさそうに頭の後ろを掻いた。 「アレフ……、申し訳ないが、急な入学だったために用意できていないのだ」 アレフは悲痛な表情を浮かべ落ち込んだ。 その様子を見たマースは、自分はなんと無神経なことを言ってしまったのだろう、と良心を痛めながら、アレフへのフォローをする。 「学院にも木剣はありますゆえ、我慢していただければ……。そのうち、また買いに行きましょうぞ」 マースのフォローは虚しくも、アレフの耳には入ってこなかった。 アレフは喜んでいるエトナの剣をじーっと見ながら、羨ましいと思うばかりであった。 マースに連れられて来た次の場所には、赤と黒の装飾を施された馬車が何台もの止まっており、そのすぐそばには、毛並みの綺麗な馬が何体もいる停留所だった。 馬車道から一本の道路が、終着点が見えないほど伸びていた。 伸びた先には山が幾つも連なっており、道中には橋や森などが幾つも存在していた。 「ここから先は一日ほどかけて馬車を使いエルトナム学院まで行くことになります」 マースが道の先の景色を見ながら、アレフたちに言った。 アレフとエトナは目の前に広がる壮大な眺望を前に胸が高鳴った。 「まるで、夢のような風景だよ!」 「本当に綺麗!」 わいわいとはしゃぐ二人を見て、笑みをこぼすマースであった。 マースは仕切り直しに「よし」と言うと、馬車の停留所にある一つの酒場を指さした。 「あちらで馬車内でのご飯を調達しましょう」 そう言ってアレフたちが入った、メルビス酒場はほの暗く、何人かの大人たちが、酒を片手に談笑していた。 アレフたちはアンニュイな雰囲気にあまり馴染めず、マースの後ろを離れないようについていった。 マースが店内のカウンターまで行くと、グラスを拭いている一人の黒髪の男性に声をかけた。 「こんにちは、ギラルド。昨日連絡した弁当は出来ていますか?」 「おう、マースか。相変わらず体でけえな! 弁当の中に酒の注文が入ってなかったがいいのか?」 ギラルドという店のマスターとマースがお互いに笑いながら話し始めた。 「ええ、今回は教師としてここにいますので、生徒の前ではさすがに飲めない。」 そう言うと、マースは後ろについて歩いていたアレフたちのことを指さした。 マスターはカウンターから乗り出すように、アレフたちをまじまじ見ると、「こりゃまた驚いた!」と声を上げた。 「みんな! ここに、マルクトの子どもがいるぞ! 本当にいたんだ!」 その言葉に酒を片手に話していた大人たちがアレフたちの方を見て、少しの間、店内に沈黙が流れた。 かと思えば、大人たちは「おぉー!」と声を上げながら、アレフたちの傍に駆け寄った。 「もしかして、エトナ様かい!」 興奮しながら駆け寄ってきた男性の一人は、アレフの手を取った。 「違います! 俺はアレフで、こっちがエトナです!」 酒臭い顔を近づけられ、アレフは顔を逸らしながら、エトナの方をみて男に返事をした。 すると周りの大人たちも一斉にエトナの方を見ては、エトナの手を取った。 「あなた様がマルクトの子どもでしたか!」 あまりの勢いに、思わずエトナはたじろいでしまう。 「こんな可愛らしいお顔だったとは、このケテル、しかと覚えましたぞ」 「あなたがマルクトの……。これまた優しい顔をしてらっしゃる」 「マルクト様に以前ご指導して頂いた、メルクゥワット・ベルギルスリザベルと申します。ぜひ名前だけでも覚えてくださいまし!」 エトナの周りにわんさかと大人たちが取り囲み、飛び交う言葉に何とか相槌を打っては対応に追われていた。 アレフはその景色を見て、マースに思わず質問する。 「悪騎士マルクトって、悪人なんじゃないの?」 「確かに悪いことをしましたとも、しかし、彼の実績の数々と言ったら、それはもう凄いもので、才能と社会貢献に関しては評価されるべき方でした」 「じゃあ、なんで悪騎士なんかに?」 「さぁ、それは分かりません。ローレンス殿が言うには、悪いアーティファクトに乗っ取られたのではないかと話しておりました」 アレフとマースの会話のさなか、一人の男性が口を挟む。 「そうです。悪いアーティファクト、人の魂が入ったアーティファクトに乗っ取られたのだとそう言われています」 会話に入ってきた男は左腕がなく、やせ形の体型をしており、黄土色のコートを羽織っていた。 「おお、ケテル先生。こんなところで会うとは奇遇ですな」 「マース先生。お疲れ様です」 紹介されたケテルはマースとアレフに頭を下げると、右手を差し出した。 「初めまして、アレフ・クロウリー。クロウリー夫妻のことは存じております」 「お父さんたちの知り合い……」 アレフは差し出された右手を握った。ケテルは笑顔を見せると話を再開した。 「そう。そして、自然公園での戦争。私も参加していました。といっても、大した活躍もせずに退いてしまいましたが……」 ケテルはそう言うと、失った左腕をさすった。 その姿を見たアレフはケテルの顔と左腕を交互に見比べ「いえ、お父さんたちと一緒に戦ってくれてありがとうございました」と言った。 ケテルは悲しそうに「ありがとう」とアレフに言葉を返した。 傍にいるマースもなんだかしんみりした様子をしていた。 ケテルは改まった顔付きで話を続けた。 「私は生き残ったからこそ思うのです。悪いアーティファクトについて、あなたには知って頂く権利があります」 真剣な表情で言うケテルだったが、マースが静止をかける。 「ケテル先生。言ってはいけません」 「マース先生。アレフとエトナには聞く権利があり、そして、知ってもらわなければなりません」 「なにを?」 アレフがケテルに聞き返す。 「アーティファクトに入っていた魂の名前です」 「ケテル先生」 マースが再び静止をかけるが、ケテルはそんなことはお構いなしに話を続けた。 「ヴォ―ティガーン。それがその魂の呼び名です」 ヴォ―ディガーン。その名前にアレフは聞き覚えがあった。確か、アーサー王伝説に登場する人物である。 その名前を知っていたからだろう、アレフから出てきた言葉は変わっていた。 「おとぎ話の中じゃないの?」 マースとケテルが思わず、顔を見合わせる。 すると納得したようにケテルは頷いた。 「なるほど。あなたは小説にある世界は作り物だと思っているのですね」 「アレフ、残念だとは思うが、実はあれらは作り物ではないのだ。ここで起きた話を、面白おかしく書いたものを、アインに持ち込んでいるのだよ」 アレフの口は空いたまま塞がらなかった。 「他にもたくさんの物語がここで起きたことを書いたものです。例えば……」 「もういいです!」 今まで読んできた物語が、実話の話だったとは知りたくもなかった。 なんだか嬉しいような悲しいような、不思議な気持ちになり、これ以上聞くと二度と小説が読めなくなりそうにアレフは感じた。 「マース! 持ってきたぞ」 そう言って、先ほどまで姿が見えなかったマスターが店の奥から現れた。 「オレンジジュースとベイビーチップスはサービスだ! マルクトの実子に会えたことだしな!」 上機嫌なマスターはカウンターに青色の布でくるまれた弁当を置くと「馬の準備も出来てるぞ」と言い残し、店の奥へと消えていった。 「さて、ケテル先生。私たちはこれにて失礼しますぞ。次は学院で会いましょう」 「ええ、またお会いしましょう。マース先生、アレフ、そして……」 ケテルはもみくちゃにされているエトナを見て、苦笑いをした。 取り囲んでいる大人たち相手に「いい加減にしなさい」と言って、追い払いながら店への扉を開けた。 「さて、どうぞ行ってらっしゃいませ。エトナ様」 エトナはぐったりしながら「すみません」と言うと、店の外へ歩き出した。 この店に入ってきた時よりも増えている大人たちは、ガヤガヤと別れの言葉をエトナに送っていた。 その姿を見ながら、マースは貰った弁当を片手に、アレフは持
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