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「榊を呼んで! 今すぐよ」
朝っぱらからお嬢様が騒いでいる。ベッドから出ることもせずに、私がやってくるのを待っているのだろうか。朝から元気で何よりではあるが、あとでよく言って聞かせねばならない。もう少し淑女としての自覚を持っていただかなければ。
「お嬢様、榊さんは今日休暇を……」
「知らないそんなの。今すぐ榊を呼んできて。でないと着替えない」
「お嬢様……」
お嬢様のお部屋の隣に与えられた私の執事室は、大騒ぎしているお嬢様のお声がよく響く。すぐに様々なことに対応出来るように配置された部屋割りではあるが、うら若い女性であるお嬢様のお声がこうも筒抜けなのはどうかと思う。
私はお嬢様が生まれた十八年前にこのお屋敷にやってきて、それ以来お嬢様専属の執事の任に就いている。妻に先立たれて独り身である私は、残りの人生をお嬢様に捧げるつもりで日々を過ごしているが、今日は休暇をいただいていた。妻の命日なのだ。
しかしお休みをいただくと前もってお伝えしていたはずなのに、一晩経ったらお忘れになってしまったのだろうか。代わりのお世話係としてつけたメイドのアリサがおろおろとしている姿が目に浮かんだ。
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