榊執事の休日

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「十八歳と言えば立派な大人でございます」 「……何よ」  生まれた時からお嬢様のお世話をしてきたが、いつまでも子供ではない。どこかで線引をしなければ、このままずるずると着替えを手伝わされることになる。アリサにお世話を任せた方が良いに決まっていた。 「──アリサ。お嬢様のお着替えをお願いします。私はこれから出掛けますので」 「榊!!」  アリサが相変わらずおろおろしていたが、これ以上問答しても仕方ない。いつまでも着替えないわけにもいかないだろうし、私がいないとなればアリサに託すしかなかった。 「さて」  一度執事室に戻り、再び私服に着替えると私は少しばかり後ろ髪を引かれる思いでお屋敷を出た。休暇をいただくのは当然の権利であるのに、お嬢様のおそばに控えていないことの方が落ち着かないなんて、自分でも困ったものだと感じていた。心の中で亡き妻に謝罪した。   § 「ねえアリサ。毎年いつもこの日、榊はお休みをするのよね。何か知ってる?」 「亡くなられた奥さんの命日だと伺ってます」 「……ふぅん」  あとで聞いた話だが、お嬢様がどこか複雑そうな顔をしながら、お屋敷の窓から私の出かけてゆく後ろ姿を見つめていたそうだ。  意外と寂しがりやなお嬢様は、十八とは言えど私にとってはまだまだ子供だ。  もしかたらいくつになっても「榊はどこ! 榊を呼んで!」などと叫んでいるのかも知れない。想像して思わず苦笑いが漏れた。 終
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