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「はぁ……仕方がないですね」
思わず内心が口からこぼれ落ちる。墓参りに出かけるために簡素な服装を選んでいたが、お嬢様の前にそんな姿で立つわけにはいかない。鏡の前で白髪が目立つようになってきた髪を整え、いつものようにかっちりとした執事服に着替えるとお嬢様の元へ向かった。
「お嬢様、失礼いたします」
「榊、遅い!」
「申し訳ございません。何かお急ぎのご用でもございましたか?」
「服を選んで」
本日お嬢様がお召しになる服は、私の指示でアリサに託していたはずだったが、今日の気分に合わなかったのだろうか。
「そちらのお召し物では不都合でしたか?」
「榊が選んで」
「私がご用意させていただきました。昨夜お伝えしました通り、本日私は休暇をいただいております。そのためアリサをお付けしたのですが……」
「榊が着替えさせて」
「お嬢様。お嬢様はおいくつになられましたか」
「じゅ、十八だけど」
「でしたら。執事と言えど私のような男の目に肌を見せてはなりません。恥じらいを覚えてください」
「榊は男とかじゃないし。おじさんじゃない」
「──ですが」
「おじいさんて呼ばれないだけ感謝してよねっ」
おじさんだろうがおじいさんだろうが、男には変わりなかった。尤も私としてもお嬢様を異性として見ているわけではないし、そんな意識をされても困るのだが、私が言いたいのはそういうことではなかった。
もう十八なのだ、お嬢様は。
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