出会い

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出会い

仕事の昼休憩中、ふと気になっていた近くのカフェに立ち寄った俺は外のテラス席で珈琲を飲みながら午後の予定をタブレットで確認していた。 珍しく客も少なく静かなそこでゆったりと寛いでいると、きゃあきゃあと遠くの方から女性たちの黄色い声が聞こえてきてつい其方へと視線を向ける。 目を凝らせば複数人の女性に囲まれてこちらの方向へ歩いてくる、やけに顔の整った少し軽薄そうな男性が視界に入って、すごいモテっぷりだと人並みな感想が浮かんできた。 身内以外には特に他人に興味の湧かない俺は、直ぐに彼からタブレットへと視線を戻す。 「志貴くん見て!あの人すっごいかっこいい〜」 「本当だね」 「でしょ〜」 集団が横を通り過ぎていく時に、その中の1人の女性が俺のことを指さして男性へと声をかけた。 彼は一瞬だけ俺の方に視線を向けると同意するように女の子に微笑んだ。 ああいう風に言われることに慣れている俺は、もう少し静かにして欲しいな〜位にしか思わなくて、自分のことを話題に出されているのに興味も湧いてこない。 早く立ち去って欲しいと思いながら、タブレットを見つめていると、急に影が落ちて俺は顔を上げた。 先程集団の中心にいた綺麗な男性が俺の横に立って申し訳なさそうに苦笑いを浮かべているのが目に入ってくる。 「騒がしくしてごめんね」 「全然大丈夫ですよ〜。気にしてませんから」 わざわざ謝りに来るなんて律儀だなってつい思ってしまう。 「なら良かった。仕事中に邪魔しちゃったよね。謝りたかったけどこっちを見てくれないから声をかけさせて貰ったんだ」 優しげに微笑む彼はそれだけ言うと、俺に背を向けて待たせていた女の子の集団の中に戻っていく。 待たせてごめんね、なんて優しげな声で言っているのが聞こえてきて彼はきっと誰にでもあんな風に優しくするのだと思った。 優しいけれど平等。 そんなイメージを抱いて、彼は少し自分と似ていると思った。 やけに綺麗な顔をしていた彼のことを思い浮かべながら、自分の秘書を思い出す。あいつも大概綺麗な顔をしているけれど、あいつにも負けていないんじゃないかってくらい整っている顔をしていて一見関わりにくそうな感じがするのに、どこかチャラいあの雰囲気がそれを軟化させている気がする。 「…まあ、もう会うこともないだろ」 人肌ほどに冷めた珈琲を喉に流し込んでから、腕時計を見て時間を確認すると、そろそろ会社に戻らなければいけない時間になっていたから会計を終えて会社へと戻った。
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