勘違いの先

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凝った肩をぐるぐると回しながら月見の運転する車で再び家へと帰る。商談は何とか上手く纏まってくれたけど、その代わりに疲れ果てて癒しが欲しいと思ってしまう。 外はすっかり暗くなっていて、今日も仕事したな〜って疲れた顔した人達が帰宅しているのが目に止まった。 「…ちょっと寄って欲しい所ある」 確かあのカフェは21時までだったはずだ。 まだ今は19時。 営業時間には間に合うだろう。 居る訳ないって分かってるのに気になってしまってつい出た言葉に月見はため息混じりに分かりましたって言ってくれた。 ナビでカフェを検索した月見はその場所へと車を走らせる。帰宅ラッシュでバンバン横を通り過ぎて行く車の波を抜けると、カフェ付近に着いたから、月見には待っていてもらってカフェへと1人で向かった。 先程までの慌ただしさとは無縁のゆったりとした時間が流れるそこに着くと、流石に暗いから中へと入った。 見渡してみても八重樫さんの姿は見当たらなくて、そりゃそうだなって思いながら店員さんに珈琲を頼んだ。 静かでゆったりとした時間が過ぎていく。 流れているピアノ伴奏の音楽が疲れた体を癒してリラックスさせてくれているように感じた。 30分くらい居たと思う。 月見を待たせているから長い時間いる訳にも行かなくて、俺は店を出た。運転席でじっと俺を待っていた月見がこちらに気がついて車の窓を開けた。 「もういいんですか?」 「まーね、居なかったから」 「居ないって分かってて来させましたね」 ガソリンの無駄ってボヤいて眉間に皺を寄せる月見の顔に自分の顔を近づけて、眉間をグリグリしてやる。 それに苛立ったのか、月見が抗議しようと顔を上げて更に俺に顔を近づけてきた時、星野君?って聞き覚えのある声が耳へと届いてとっさにそちらへと視線を向けた。 最初に驚いた顔をしていた彼は、その顔を少しずつ傷付いた顔へと変化させていく。その変化を目に焼き付けながら、どうしてそんな顔をするんだろうってつい思ってしまう。 「八重樫さん、こんな所で何してるんですか?」 「……カフェに行こうと思って…。でも、やっぱり今日はやめておこうと思う」 そう言っていつも通りの優しげな笑顔を浮かべた彼になんだか違和感を覚えて俺は内心で首を傾げた。 「何かありました?」 「ううん。何も無いよ」 「……嘘だ」 この人は思ってることを隠すのが上手い。 だけど、何故かあんたの変化なら俺は直ぐに気づくことが出来るんだ。 足早に彼に近づくと彼は目の前で立ち止まった俺に向けていた笑みを崩して、少しだけ困ったような顔をした。 「……なんで嘘だと思うの?」 「勘です」 「……そっか……、ねえ、」 「どうしたんですか?」 どうしてそんなに悲しそうな顔をしているんだ? 「恋人が要るならどうして僕に毎日花束をくれようとするの?」 「……は、い?」
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