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彼に言われた言葉が上手く処理できなくて聞き返すと八重樫さんは一瞬月見の方に視線を向けてから、彼とキスしようとしてたから…って呟いた。
先程の月見とのやり取りを思い出して、確かに辺りも暗く、よく見えない状態では角度的にキスしようとしてる様にも見えたかもしれないと納得してしまう。
「勘違いですよ〜」
「…勘違い?」
首を傾げる八重樫さんは相変わらず傷付いた色を滲ませている。それが嬉しいと思うなんて俺は最低かもしれない。
「話してただけです。あいつは俺の秘書の月見。ほら、弟の恋人の」
「……え……え!?」
「あはは、キスしてるように見えました?」
「うーん…そうだね…ごめん勘違いして」
暗くても近くにいるから、彼が恥ずかしそうに顔を赤くして微かに俯いたのがしっかりと確認できて、その表情を見て俺の欲が顔を出した。
「……もしかして、やきもち焼きました?」
「……そんなこと…ないよ」
「今、少し間がありましたけど」
彼との距離を更に詰めて、下から彼の顔を覗き込む。八重樫さんの方が俺よりも少しだけ背が高いから、こういうとき彼の顔が見やすいのは得した気分になってしまう。
「…その…僕帰るね」
「だーめ」
逃げようとする八重樫さんの手を取って、月見が窓を閉めているのを横目で確認してから、彼の唇に吸い付いた。
「ちょっと、星野君!」
逃げようとする彼を死角になる所まで連れていくと、壁に押付けて彼のことを貪る。
可愛い…。
熱に浮かされたように目尻を赤く染める彼は、まるで慣れてないみたいにぎゅっと目を閉じて、俺のそれを受け入れてくれる。抵抗されないことに安堵して、それから少しだけ期待してしまう。
「…はっ…八重樫さん、好き…」
「…ん…、星野君っ、」
舌をねじ込んで荒々しく唾液を混ぜ合いながら、なぜだか凄く甘く感じる彼の口内を堪能する。柔らかな彼の唇を甘噛みしたり、歯列を舌でなぞりながらどんどんと熱を増していく彼の体温にありえないくらい興奮した。
「…目、開けて」
「…はあ…、恥ずかしいってば」
「なんで?」
銀杏の葉とブラウンの混ざったような色をした、不思議な色合いの彼の瞳を見つめながら、この人は本当に綺麗すぎると思ってしまう。
「…僕、こういう経験ないし……それに、無理矢理なのに嫌じゃないって思ってしまって……変でしょ。…君が知らない人とキスしてると思ったら、嫉妬したんだ…」
「っ…は〜…なにそれ…可愛すぎる…」
それってつまり、ヤリまくってるとかは俺の勘違いだったってことだよね?
それにそんなこと言われたら……。
辛抱たまらずまた彼に口を近付けると、次は八重樫さんから俺にキスをしてくれた。それに驚いて固まっていると、くるりと彼が俺たちの立ち位置を反転させて、次は俺が壁に押し付けられる番になった。
このキスはなんのためのモノなのだろうか。
明らかに感じる八重樫さんからの欲を受け止めながら、付き合っているわけでもなく、花束すら受け取って貰えないっていうのにどうしてこんなことをしているんだろうって、自分から始めたくせに疑問に思った。
それでも、彼から与えられる、ぎこちなくも甘いキスは俺の心を満たしてくれて、彼が俺に興奮してくれている事実が嬉しい。
「…そうだ、これ…この前女の子たちから助けてくれたお礼」
「え…んっ!?……甘っ」
八重樫さんがポケットから包みに入った小さな何かを取り出して自分の口に入れると、そのまま俺にキスをしてきた。彼の口から流れてくる甘い味に、それがチョコだと分かる。
慣れてないと言いながら、こんなことをしてくる八重樫さんは実は俺より1枚上手じゃないかと思ってしまう。
甘いキスはチョコのおかげで更に甘く味付けされて、止むことの無い欲を発散させるように俺たちはただひたすらお互いの唇を貪り合った。
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