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「勘違いですよ〜」
「…勘違い?」
僕の言葉に対して、緩く微笑みながらそう言った星野君に、嘘じゃないのかってつい疑念を抱いてしまう。
別に僕達は付き合っている訳でもないのに、彼が他の人に触れられそうになっていたのが許せなくて、辛いだなんて、自分がこんなに独占欲の強い人間だとは知らなかった。
「話してただけです。あいつは俺の秘書の月見。ほら、弟の恋人の」
「……え……え!?」
そういえば…話に聞いていた人と特徴が一致していると気がついて、一気に恥ずかしさが押し寄せてきた。
「あはは、キスしてるように見えました?」
「うーん…そうだね…ごめん勘違いして」
暗く苦しい感情は、勘違いだと気が付いてすっと引いて行って、その代わりに自分でも知らなかった自分の欲を知って、大人気なかったなって羞恥心が湧いてきた。
「……もしかして、やきもち焼きました?」
「……そんなこと…ないよ」
「今、少し間がありましたけど」
からかうようにそんなことを言いながら、僕との距離を詰めてくる星野君に、今は駄目だってつい思ってしまう。
「…その…僕帰るね」
今、君に近づかれると自覚した欲が爆発して止まらなくなりそうだから。
「だーめ」
持て余した感情に耐えきれなくて逃げようとした僕の腕を星野君が掴んで、彼の綺麗すぎる顔が視界いっぱいに迫ってきた。
「ちょっと、星野君!」
彼にキスをされたと分かって、これはまずいって脳内で警報が鳴る。このまま彼に流されてしまったら、きっと彼から離れられなくなる。
それなのに…そうと分かっているのに…、彼から受けるキスを拒むことなんて出来ない。
死角になる位置に連れてこられて、壁に追い詰められながらのキスは僕の全身に有り得ないくらいの欲を生み出して、ゾクゾクと背中に這う快感に、自分からも星野君を求めて舌を動かした。
「…はっ…八重樫さん、好き…」
「…ん…、星野君っ、」
彼から貰う好きって言葉が好きだ…。
君からその言葉を貰うのが僕だけならいいのに。
温かな彼の体温を服越しに感じて、彼をめちゃくちゃにして自分の胸の中に閉じ込めてしまいたいとつい思うけれど、それをなんとか微かに残る理性で踏み止め続けた。
「…目、開けて」
「…はあ…、恥ずかしいってば」
「なんで?」
星野君の言葉に、そろりと目を開ける。
「…僕、こういう経験ないし……それに、無理矢理なのに嫌じゃないって思ってしまって……変でしょ。…君が知らない人とキスしてると思ったら、嫉妬したんだ…」
「っ…は〜…なにそれ…可愛すぎる…」
可愛くなんてないよ…。
きっと君が僕の心の中を知ってしまったら、重いって嫌いになってしまうかもしれない。
僕にまたキスをしようとしてくる彼に、自分から口付けを送る。
位置を反転させて、次は僕が彼を壁に追い詰めて、逃がさないように、離さないようにただひたすら君を求めた。
このキスは、僕にとって君への気持ちをしっかりと自分に刻み込む為のモノだ。
「…そうだ、これ…この前女の子たちから助けてくれたお礼」
ずっと渡せなかったチョコレートを自分の口に放り込んで、そのまま彼へとまたキスをする。
口移しでチョコを渡しながら、君は僕の特別だと心の中で呟いた。
僕は誰からもプレゼントを受け取らない。
そして、誰にも特別な物を渡さない。
そんなルールもう捨ててしまおう。
甘いって驚いたように口に出した彼に、もっと沢山甘い甘いキスをする。
僕の平等をいとも簡単に乗り越えた君を僕はもう拒否することなんて出来やしない。
求めて、求め合って。
初めての感情を持て余しすぎて、君から1分1秒も離れたくなくて、止まないキスを君へ注いだ。
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