もどかしい

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風呂から上がると、適当に髪をタオルドライして肩にタオルを引っ掛けてリビングのソファーへと体を預ける。 「はあ〜……今日も頑張った〜」 「お疲れ様〜」 八重樫さんが俺の隣に腰掛けながらそう言ってくれて、それを聞くとなんだか疲れが一気に吹っ飛んでいくような気がした。 好きな人にお疲れって言って貰えるのってこんなに元気出るんだなあってしみじみ思う。 「お風呂の時から思ってたけど、髪を降ろしてるからなんだか雰囲気違うね」 まだ濡れている俺の髪を八重樫さんが撫でてきて、俺は自分の髪を指でつまんで、そうですか?って首を傾げた。 仕事の時は前髪はアップにして後ろに撫で付けているけど、今はセットしていないから髪は無造作に垂れ下がっている。 けど、そんなに違うかな? 「なんだか年相応って感じ」 「いつもは老けて見えるってことですか?」 「老けているというより、大人びてるって言い方の方がしっくりくるかな」 八重樫さんの手が俺の頬を撫でて、それから俺の前髪をかき上げるとおでこにキスをしてきた。 「どっちの星野君も素敵だなって思う」 至近距離で彼の柔らかな笑みを見つめながら、この人は存在自体が反則だなって思う。 彼から貰う言葉もキスも、何もかもが俺にとっては特別なモノでそれを貰えることが泣きそうになるくらい嬉しいなんて彼はきっと分かってないんだと思う。 俺は目の前にある彼の唇に自分からキスをして、好きだって言葉にして伝える。 「好き……八重樫さん…」 「……っ…何もしないって言ったじゃない」 「そんなの守ってたら俺おかしくなりますよ」 ふはっ、て吹き出すみたいに笑って、笑ったまま彼にまたキスをする。 ああ…もう……本当に好きだよ。 「僕も好きだよ」 「もっと言って」 「……好き……星野君、大好きだよ」 「ねえ……名前呼んで……俺の名前っ、わかる?」 八重樫さんに抱きついて耳元で囁くと、彼が微かに喉を上下させてから同じように耳元で俺の名前を囁いてくれた。 「……貴臣、大好きだよ」 「ん……俺も志貴さんのことめちゃくちゃ大好きです」 好きな人に名前を呼ばれるのは少し気恥ずかしくて、でも嬉しくて……にやける口元を抑えることが出来ない。 お互いに何度も名前を呼びあって、その度にキスをして、今の俺達にはそれだけでも幸せで、ただこうやって彼の隣にいれることが奇跡みたいだって思う。 「ねえ、俺のこと抱いてくれる?」 きっと彼とならこの先だって進める。 「……貴臣……」 「だめ?」 志貴さんはカフェでダメだって言った時と同じような困った顔をしていて、その顔を見つめながら、俺のこと抱きたくないのかな?って少しだけ不安になった。
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