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目を覚ますと志貴さんの寝顔がドアップに映し出されてドキリと胸が跳ねた。
「……やばっ……」
好きな人が隣で寝てるって思うだけでめちゃくちゃドキドキするし、嬉しいし、いつも通りの朝が特別なものに思えてにやけそうになる。
「ん……あっ、おはよう」
「おはようございます」
微かに目を開けた志貴さんはまだ眠たそうなトロンとした瞳を俺に向けていつもよりも数段のんびりとした口調で挨拶をしてくれた。
それすら愛おしく思えて、言葉に出来ないくらいたまらない気持ちになる。
「俺仕事だから行かないと……」
「そっか……じゃあ僕も一緒に出ようかな」
「送っていくよ」
「ううん、タクシー拾うから大丈夫だよ。仕事頑張ってね」
ちゅって志貴さんが軽くキスをしてきて、俺はかーって顔を赤くさせる。
「可愛い」
「……可愛くないですよ〜」
反論にもなってない言葉を返して、俺はベッドから出ると着替え始める。その様子をじーっと志貴さんが見つめて来るから恥ずかしくて背中を向けると、ぷって笑われてしまった。
「なんですか〜」
「ううん、貴臣は何しててもかっこいいなって思って」
「……可愛いの次はかっこいい、ですか」
「だって思っちゃうんだもん」
もんって、アラサー男が言ってもイタいだけのはずなのに志貴さんが言うと可愛く聞こえるから不思議だ。
俺は顔を赤くしたままスーツに着替え終えると、身支度を整えて、いつの間にか服を着ていた志貴さんと一緒に外に出た。
「離れるの寂しい」
ぎゅって彼の手を握ると、志貴さんも手に力を込めながら僕も寂しいってはにかむ。
その顔に愛おしさを覚えて、思わず彼の頬にキスをすると驚いた顔をした志貴さんがみるみる耳まで赤くさせて俺がキスした頬を片手で抑えながら、やられた……って呟いた。
「〜〜っ、もうっ、遅刻するよ」
「ふっ、まだ大丈夫ですよ」
手を繋いだままエレベーターに乗り込んで、お互いにからかい合ながら和やかな時間を楽しんだ。
この優しくて楽しい時間が好きだし、もっと彼と一緒にいたい。
仕事が嫌だと思ったのは久しぶりだった。
「はぁ……本当に離れたくない」
「……僕も」
ヘラって笑うと眉を垂れさせて志貴さんも微笑んでくれる。
少しずつ減っていくエレベーターの数字を眺めながら、もっとこの時間が長く続きますようにって願った。
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