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〜貴臣視点〜
会社に着くと、1度自分の執務室へと寄ってから社長専用の執務室へと向かう。母さんからメールで、父さんの様子を見てほしいと頼まれたからだ。
執務室の扉をノックすると、いつもは直ぐに返ってくる反応が返ってこず俺は首を傾げた。
「あれ〜、貴臣。何してるの?」
「……社長」
父さんは、今出勤してきたのか俺の顔を見ていつも通り間の抜けた笑顔を向けながらこちらへと近づいてきた。
何故か父さんの着ているスーツはヨレヨレで微かに汚れているけれど、この人になにか突っ込みを入れてもこちらが疲れるだけだから何も言わないでおいた。
執務室の中に入ると備え付けのソファーへと父さんと向かい合って腰掛けた。
「また喧嘩したんですか」
「喧嘩じゃないさ。美紀さんからの愛の試練だよ。あははは」
「あははは、じゃないですよ」
「いやー、今回は本当にどうしようかと思ったよ。家から遠い所に1文無しで車から放り出されてねえ」
能天気に笑う父さんを見つめながら深い深いため息を吐く。
普段はこんな感じなのに、こと仕事となると本当に尊敬できる上司になるのだから複雑な心境になる。
「どうやってここへ戻って来れたんだよ」
思わず敬語を崩すと、父さんは相変わらず笑いながら、親切な青年に助けて貰ったんだよって答えた。
「物好きもいるもんだな」
「世間もまだ捨てたものじゃないさ。それよりも、貴臣にお見合いの話が来ているんだけれど……」
「断ってくれ」
即答すると、苦笑いを返される。
「そろそろ誰かとお付き合いする気は無いのかい?学生の頃は特定の子を作らなくても何も言わなかったけれど、もういい大人なんだから」
「恋人がいるので」
「うんうん。恋人がいるんだねって、え!??貴臣に特定の子が!?本当かい!!!どんな子だい!年上!?年下!!!?カワイイ系?美人系?それともカッコイイ系かな!!!今日は美紀さんにお赤飯を炊いてもらおうね!!!!」
……うるさい……。
「いや……そういうのは止めてくれ」
「ねえ」
「会わせませんよ」
思わず敬語で返すと、ぶーって父さんが唇を尖らせた。50代のおっさんがそんなことしてもちっとも可愛くない。
「貴臣にも遂に春が訪れたんだね〜。もしかしたらこのままずっと独身かもって心配していたんだよ。結婚は考えているのかい?子供は?まだ早すぎるかな。付き合ってどのくらいなんだい?」
段々と女子高生の質問攻めに合っている気分になってくるけれど、俺はニコリと笑みを顔に貼り付けて、教えませんって答えた。
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