離さないから

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頑なな俺に父さんは、よよよって泣き真似をしながら酷いよって抗議してくる。それがウザったくて顔に笑を貼り付けたまま棘のある声で話しかける。 「母さんに、社長はとても元気そうで喧嘩のことを気にしてる様子はなかったと伝えておきますね」 「ちょっと、貴臣!?」 「嫌ならもう詮索してこないでください」 はぁ…って小さくため息を零すと、父さんが困った顔をした後に笑みを引っ込めて俺の事をじっと見つめてきた。 「でもね貴臣。いずれ恋人は紹介してもらわなと困るなあ。貴臣は星野の跡取りなんだから」 「……分かってます」 「世継ぎがどうとか、そんな古臭いこと言うつもりもないし思ってもいないけれどね、どんな子なのか知っておきたいと思うのは社長としても親としても当然のことだと思わないかな?」 「……」 「それとも言えない理由でもあるのかい?」 真面目な時の父さんはいつもの緩い感じが抜けて、更に苦手になる。何を考えているのか読めない人だから余計に……。 「もしかして、悟みたいに男性とお付き合いしているとかは無いよね?」 「……」 「その沈黙は肯定と捉えていいのかな」 すっと細まる彼の瞳を見つめながら、何を言われるか身構える。 「もう一度だけ伝えておくけれど貴臣、君は星野グループの跡取りだ。私は同性同士だろうと気持ちさえあれば付き合えばいいと思っているけれど、世間はそうはいかない。星野は大きな会社だから次期社長に男の恋人がいるというのはイメージ的にあまり良くはないんだよ」 「……反対、という事ですか」 「……私個人としては賛成してあげたい。けれど、社長の立場から言わせるならお付き合いは控えた方がいい」 「……失礼します」 俺はソファーから立ち上がると、父さんに背を向けて出口まで早足で向かった。 「貴臣、1度私に会わせに来なさい」 「……お断りします」 ガチャりと扉の開く音がやけに大きく聴こえる気がした。全身の血が沸騰しそうな程、イラついて、いつも会社では決して崩さない笑みを遂消してしまう。 自分の執務室へと向かいながら、あのクソ親父!って内心で悪態ついた。 「荒れてますね」 「あーー!もう、ムカつく」 「社長に何か言われました?」 執務室に戻ると、月見がPC作業をしていて、俺はその隣に腰掛けて愚痴をこぼす。 志貴さんとやっと付き合えたっていうのにどうして反対されないといけないんだって歯痒くなった。 「……社長の立場だと男同士の恋愛は認められないんだと」 「貴方は跡取りですからね」 「……月見達は良くて俺達はダメなのかよ」 「社長は悟君に甘いですから」 「理不尽だー!」 「……静かにして貰えませんか」 月見はあまり興味が無いのか眉間に皺を寄せてうるさいって俺を睨みつけてくる。 親友にまでそんな態度取られると凄い辛いんだけど……。 渋々自分のデスクに戻って仕事を再開するけれど、反対されたことが思いの外ショックすぎて中々進まない。 「……志貴さんに会いたい……」 今すごくそう思った。
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