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去っていく彼の背中を見つめながら、どうしても追いかけることが出来なくて自分の臆病さに本当に腹が立った。
自分はいつからこんなに臆病者になったんだろう。
本当は今すぐ追いかけて、彼を抱きしめて愛してるって離れないって伝えてあげるべきなのに……。
貴臣の立場を知って急に怖くなった。
これから先彼と一緒にいて、世間から彼がどう思われるのかって想像するだけで悲しくなった。同時に自分たちの関係は、同性愛は歪なものだと突き付けられるようで怖くて、気づいたらあんなことを言ってたんだ。
「貴臣……僕は君のこと本当に愛してる……本当だよ」
彼の背中に懺悔するように呟いてみても彼はこっちを振り返ってはくれない。
貴臣から視線を外して、騒がせたことを周りの人や店員さんに謝ってから会計を済ませてカフェを出た。
そのまま貴臣に背を向けて家に向かって逆方向を進んでいく。
彼をこの腕の中で抱きしめた時はあんなにも近くに感じた距離を今はすごく遠くに感じて、俯きがちに道を進みながらこれから先どうしたらいいのか考えることも億劫に感じた。
家に着くと、リビングの方から幸せそうに話す声が聞こえてきて、タイミング悪いなってつい思ってしまう。
今は弟達の幸せそうな姿を見るのが辛くて、再び外に出ようと靴を履き直していると、リビングに通じるドアが開いて瑞貴が顔を出した。
「あ、やっぱり居たんだ」
「……瑞貴」
どうしてこういう時に限って気づくんだろう。
平くんと話してたんじゃないの?
その疑問に答えるように平くんも瑞貴の後ろからひょこりと顔を出して、こんにちはって僕に挨拶をしてくれた。
「こんにちは」
「兄貴なんだか元気ないね」
「……そんなことないよ」
顔に笑顔を貼り付けて答えたら、瑞貴が明らかに怪訝な顔を浮かべた。
「その顔をしてる時の兄貴は大体なにか隠してるんだよな」
瑞貴の言葉に、この子には隠し事は出来ないなって内心でため息を着いた。
話せば楽になるのかな……。
もう、どうしたらいいのか分からない。
瑞貴と平くんの顔を見つめながら、くしゃりと顔を歪めて、僕は笑みを崩す。
「大切な人を傷つけちゃったんだ……」
大切にしたいと思う。
彼を何よりも大切にガラス細工に振れるように何重にも包み込んで、決して傷つけないように出来たらいいって……。
それなのに、どうして思い通りにならないんだろう。
「……っ、どうしたらいいのか分からないよ」
貴臣もこんな気持ちなのかな。
貴臣……ごめん……。
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