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貴臣の家に向かう前に僕はある場所へと足を運んでいた。
「いらっしゃいませ」
店員さんの挨拶を耳に入れながら、並べてある花々を視界に入れる。
「あの……」
「はい?」
「……花束を作って欲しいんですけど……お願い出来ますか?」
「はい、どのお花がよろしいですか?」
「……すみません、あまり花に詳しくなくて……恋人に贈りたいと思ってるんですけど」
「それなら、薔薇やカーネーション等が人気が高いですが」
店員さんの話を聞きながら、どうするか思案する。
自分のこの気持ちをどう表現したらいいのか分からない。
ただ、貴臣に出会えてよかったって、貴臣を好きになれたこと、貴臣と一緒にいれることが何よりも特別で幸せなことだって伝えたい。
「……ずっと一緒にいたいって伝えたいんです」
ぽつりと僕の零した言葉に、店員さんがぱああっと嬉しそうな顔をして、それならピッタリのものがありますよって言ってくれた。
店員さんから、それを教えてもらった僕は、それでお願いしますって返事を返す。
しばらく店内で待っていると、店員さんが出来上がった花束を手渡してくれて、僕はそれを大事に抱えながら店員さんにお礼を言って外へと出た。
タクシーを拾って、貴臣の家まで向かうと、貴臣が帰ってくるのを待つ。
何時間でも待つつもりで来たから、扉の前に立って手すりの向こうから見える景色をぼーっと眺める。
この間は夜だったから暗くて明かりしか見えなかった街が今ははっきりと確認できて、それを見つめながら貴臣の会社はどこかなって探してみる。
あれかな……これかな……なんて思いながら、ふと、貴臣は泣いていないだろうかって疑問に思った。
もしも、泣いているとしたらそれは僕のせいなんだろう、とも……。
「志貴さん?」
「……貴臣」
丁度彼のことを考えていると、貴臣がタイミング良く帰ってきて、驚いた顔をしている貴臣が僕にゆっくりと近づいてきた。
「何してるんですか」
「貴臣に会いに来たんだ」
「……なんで……っ、だって志貴さんが俺に言ったんですよっ、離れた方がいいって」
「……うん……そうだけど……ごめん。やっぱりそれ撤回させてほしい」
思った通り、今にも泣きそうな顔をした貴臣の目の前に手に持っていた花束を差し出すと、彼が驚いたように僕と花束に交互に視線を向けてきた。
「な、に?」
「99本の薔薇は永遠の愛とかずっと一緒にいようって意味があるらしいんだ」
大輪の赤い薔薇が99本束ねられたそれを貴臣に手渡すと、彼がそっとそれを受け取ってくれて、僕は彼がそれを受け取ってくれたことが泣きたくなるほど嬉しく思えた。
「あんなこと言ってごめんね……。貴臣のこと傷つけちゃった。それに……貴臣と離れるなんて僕が無理だ」
貴臣のこと好き。
人生の中で君よりも綺麗で特別な存在に出会ったことなんてないんだ。
「貴臣の立場を考えたら離れるのが1番だって分かってる。それでも、僕は君を手放すなんて無理だって気づいてしまったから、僕とずっと一緒に居てくれるかな……」
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