ずるい大人(八重樫志貴視点)

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受け取った花束をぎゅっと抱きしめた貴臣は、貴方は本当にずるいって小さく呟いた。 「俺、凄く悲しかったんですよ……」 「……うん」 「初恋なんですよっ……」 「……僕もだよ」 「っ、責任取って一生俺と一緒にいて貰いますからっ」 瞳を潤ませる貴臣にそっとキスをして、ずっと一緒にいるって返事をする。 きっと俺たちはこれからもこんな感じなんだろうなって心の中で思う。 臆病な俺と素直な彼。 喧嘩して、言い合って、なんだかんだお互いの気持ちを確かめあって、そうやってやっぱり二人一緒じゃないとダメだって自覚するんだ。 大切にしたいと思えば思う程空回りして、空回った分だけ思いは強くなる。 「貴臣が星野の跡取りだって知って怖くなったんだ……」 「……なにが怖いんですか?」 「僕が君に迷惑をかけちゃうんじゃないかって。この先、貴臣が僕のせいで傷つくことがあったら嫌だって」 「……俺だって同じですよ」 「え?」 「もしも、この関係が志貴さんの御家族に否定されたらとか、志貴さんが男と付き合うの嫌になったらとか……、怖いけど、でも、それって今が幸せだから思えることでしょう?」 貴臣が俺にキスをし返してきて、俺はそれを受け入れてから、貴臣も俺と同じなんだってなんだか安心する気がした。 思ってることは口に出さないと駄目なんだ……。 格好悪くても、みっともなくても、言葉に出さないと伝わらないこともあるから。 それでも伝わらない時は、また花束を持って彼に会いにくればいい。 そうして、何度だって愛してるって伝えるんだ。 「貴臣、愛してる」 「俺も志貴さんのこと愛してます」 ずっとずっと一緒にいたいな……。 歳をとって、足腰が立たなくなっても、笑顔で彼の傍にずっと寄り添っていたい。 それで、しわくちゃになった顔をこんな風に確かめ合いながら、君のせいだって言い合うんだ。 まだ僕達は出会って間もないし、付き合って数日も経ってないから、これから先、沢山楽しいことや嬉しいことが待ち構えていて、今日みたいに悲しいこともあると思う。 でも、それが傍にいるってことだから、それが楽しみでもあって、貴臣も同じ気持ちなら嬉しいな。 「頼りない僕だけど、貴臣のこと支えるから」 「約束ですよ?」 「うん、約束」 指切りの代わりに、僕達はまたキスをする。 間に挟まれた花束が俺たちの愛の形にも思えて、それを視界の端にいれながら、ずっと愛し抜くって心の中で誓いを立てた。 咲いては散って、散ったらまた種から芽が出て。 そうして咲き誇ったら、それを花束にして相手に贈るんだ。 それが思い合うって事なのかなって貴臣のことを見つめながら思った。
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