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数日後、俺と志貴さんは俺の実家まで足を運んでいた。
父さんが彼を連れてこいと言っていたのもあるけれど、志貴さん自身が父さんに会いたいって言ってくれたからだ。
父さんとのことを話したとき、志貴さんはすごく申し訳なさそうな顔でごめんねって謝ってきた。
まさか俺も志貴さんから父さんと同じことを言われると思っていなくて怒りを覚えたけど、ちゃんと話をして気持ちを確かめあったから結果的に関係が深まったように思える。
インターホンを押すとお手伝いさんが出て、直ぐに家の中へ通してくれた。
「あら、貴ちゃん」
「母さんおはよう」
玄関で母さんが待ってくれていて、挨拶をすると母さんが志貴さんに気がついておおらかなとほほ笑みを浮かべた。
「お父さん待ってるから早く行きなさいね」
「うん」
母さんの言葉に頷いてリビングへ向かうと父さんはコーヒー片手にスマホと睨み合いをしていた。
「おはよう」
「ん!?ああ、貴臣!なあ、聞いてくれよ〜!スマホってのはどうしてこう難解なんだい」
「スマホ教室に行ったらいいと思うよ」
「母さんからも言われたんだけどね〜……って、八重樫くんじゃない!?」
ため息をつきながらスマホをサイドテーブルに置いた父さんがこちらを振り返ると、志貴さんを見て驚きに声を上げる。
まるで知ってるみたいなその反応に俺が首を傾げると、志貴さんも父さんに向かってお久しぶりですって返した。
「え、なに?知り合い?」
「彼が俺を助けてくれた青年だよ!」
「え!?志貴さん父さんと会ってたの?俺が星野の跡取りって父さんから聞いたってこと??」
「聞いたわけじゃないけど、名刺を貰って察したっていうか……」
混乱する俺を置いてけぼりにして2人が挨拶を交し合うから、なんだかそれにモヤモヤしてしまう。
志貴さんと父さんが知らない間に仲良くなってるのは少し面白くないと思った。
「……ちょっと待って。八重樫くんがここに居るってことは貴臣の恋人って君なのかい?」
「はい。彼とお付き合いさせてもらってます」
「……そうか……貴臣と話し合ったかな?」
急に真剣な表情になった父さんに志貴さんも真剣な表情で、はいって答えた。
俺はそれを固唾を飲んで見守る。
「彼と別れることは出来ません。彼の立場も把握した上で結論を出しました。僕は彼とはどうやっても離れることは無理なんです」
志貴さんの言葉に胸がいっぱいになって、本当に彼のことが好きだって思う。
「……私は賛成できないな。父としては大賛成だ。君みたいに素敵な人となら貴臣もきっと幸せになれると思う。ただ、星野の社長の立場だと……」
「……分かってます。だから、少しだけズルをさせてください」
志貴さんはそう言って1歩前に出ると、父さんに向かって微かににやりと微笑んだように見えた。
「ズル?」
父さんの言葉に志貴さんが頷く。
「貴方ができることならなんでも叶えてくれるって言ってくださいましたよね」
「……ああ、言ったね。八重樫くんは私に関係を認めさせるためにそれを使うのかい?私は一応大企業の社長だから、他にも色々な事に有効活用できるはずだ。それでも、貴臣と一緒にいるためにそれを使うの?」
「そうです。貴臣と一緒に居れるなら僕はそれ以外何も望みません」
父さんと志貴さんの間に何があったのかは俺には分からなくて、それでも2人が何らかの約束をしていたことは分かった。
「……必ず返すと言ってくださいましたよね」
「私にできることならと言ったはずだね」
「できますよ。星野グループの社長の星野茂臣さんではなく、臣くんなら出来るはずです。だから、お願いします……。僕に貴臣くんをください」
父さんに向かって綺麗に90°腰を折った志貴さんを父さんが厳しい目で見つめていたけれど、その数秒後、父さんは、はあ〜って小さくため息をついて、志貴さんに顔を上げなさいって声をかけた。
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