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自分も席に座り直すと、未だに困った様に眉を寄せながら、口元だけに笑みを浮かべて俺を見ている彼を見つめ返した。
「なんで僕に花束をくれたの?それに、入り込むって…」
「一目惚れですかね〜」
「ん?」
俺の言葉に首を傾げる八重樫さんに頬杖を付きながら、一目惚れしましたってもう1度はっきりと伝える。そうしたら、彼はやっぱり困った顔で、そう…なんだ?って笑った。
「僕のこと好きだからくれたってことならこれは受け取れないな…」
1度受けとってくれたはずの花束を俺に突き返してきた彼の行動に内心で悲しいと思ったけれど、そんなこと顔に出さずに俺も顔に笑顔を浮かべ続ける。
「どうして?」
「皆平等がルールだから。僕は特定の相手を作る気はないし、付き合うなら全員と付き合うよ。それに、プレゼントは受け取らないことにしてるんだ。厄介事の種だから」
「へえ、じゃあこれは要らない?」
「…そう、だね」
相変わらずこの人は優しげだ。
それなのに口では残酷なことを平気で言うんだから大したものだと思う。
きっと、この容姿だから昔、相当苦労したんだろうということは分かる。俺も自分で言うのも変だけれど顔はいい方だからトラブルは結構あった。
彼にとって平等とは自分の世界を守るための大切なルールなのだろうということも理解出来た。
けれど、それは俺にとってはマイナスにしか働かない。彼の心に入り込みたいのに、皆同じ立ち位置に並んでいてくれと言われては困ってしまう。それに、生憎俺は彼の周りにいた女の子達のように従順に彼に従うようなタマでは無い。
「本当に要らないですか?」
再度問いかければ八重樫さんは相変わらず困り笑顔のまま、一度だけしっかりと俺に向かって頷いた。
「分かりましたよ〜。じゃあ、今日の所は諦めてこれは捨てます」
「…捨てちゃうの?誰か他の人にあげるとか、この前言っていた弟さんとか…」
「誰にもあげません」
悟は確かに花が好きだけど、この花束は絶対誰にも渡さない。
「これは貴方へのプレゼントだから」
貴方に上げるために迷って、悩んで、選んだものだから誰にもやらない。
貴方の心に入り込みたい俺は、貴方にも俺の心を知りたいと思って欲しい。
「…捨てるのは勿体ないと思うけど…」
「なら、貰ってくれます?」
「…それは無理」
「じゃあ、捨てます」
ニコリと笑った俺に彼は、そう…って小さく返事を返してきた。
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