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* 秘書は有能すぎた *
***
「アイツを呼べ!」
「……え? アイツですか?」
阿吽の呼吸で理解する。
傍らに有能な秘書。
なんて、とんとん拍子に進む日常があるなら教えて欲しい。
「失礼ですが、愛津様とは一体?」
「アイツは……アイツだよ!」
四十路を過ぎて、めっきり記憶力が低下した気がする。
アイツの名前をど忘れし、苦悶する俺を見ていた秘書がくすりと笑う。
「本気でボケては困りますからね」
俺の秘書は有能だ。
有能すぎるくらい有能だ。
「ああ、もう! 俺の負けだよ! アイツ、呼べ! アイツ!!」
「ええ、承知いたしました。原田様ですね」
「それだ! 原田だ!!」
会話の流れで理解しているくせに。
絶対に流れを汲んで行動しない。
「小さなことから負けを認めるプライドは大切ですよ」
「……っ!」
俺のプライドが高い故の失敗を知っている秘書だからこそ出来る技。
俺の秘書は有能だ。
有能すぎるくらい有能だ。
「(ったく、敵わない……)」
アイツには敵わない。
俺にとってのウィークポイントの矯正まで手を伸ばすなんて……。
「(本当、敵わないな。秘書には)」
【Fin.】
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