生者の行進

11/17
前へ
/17ページ
次へ
「あの人……」  男性の様子に千春も気が付いたようだ。 「何か思い出した?」  一が問うが、千春は困った表情で首を横に振る。それでも一は、優しく微笑んで見せた。 「大丈夫。もう彼の所へ帰れるからね。そしたら記憶も元通りさ」 「あの人って……?」 「君たちにとって、大切な人だよ」  行こう、と一は千春の手を取る。これから病院へ行って、千春を元に戻せば一件落着だ。だから、これが彼女の手に触れる、最後のチャンスだ。 「キンダイチ先生」  千春の声がする。一は振り返らないで返事をした。  彼女は言った。 「どうして……私の事を助けてくれたんですか」 「……それは僕が――」  一は、力強く答えた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加