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万吉は、町の小さな診療所に勤める内科医師。最近では、脳死についての研究を任され、大学病院へも行き来していた。
小さい頃から幽霊を見ることの出来る体質で、墓場で暮らす幽霊である一の所へは、よく遊びに来ていた。昨日もそんな調子で、彼との時間を過ごしたばかりだ。
一と別れ、大学病院に着いたのは、陽も落ちかけた夕方の事だ。
万吉が研究室へ足を進め始めた、その時だった。背後で聞き覚えのある子供の声が聞こえたのは。
振り返ると、一人の女性がストレッチャーに乗せられ、慌ただしく運ばれている。傍では少年がストレッチャーにしがみついて、「母さん、母さん」と繰り返し泣き叫んでいた。
「……京くん?」
茫然とした万吉の声に呼ばれた彼はすぐさま振り返った。涙に腫らした真っ赤な目で万吉を認識すると、彼は途端に大声で泣き出して、万吉に抱き着いた。
「万吉先生……母さんが……死んじゃうよお……っ!」
話を聞くと、京の母である千春は、毎日足繁く通っていた神社の階段から転落してしまったらしかった。頭を強く打ち、意識が戻らないのだという。
万吉が、千春や京と関わりがあるのは当然だ。彼らは、万吉にとって唯一無二の親友、一の家族だったから。
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