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万吉が去り、一人部屋に残された一は、ソファにゆったり腰かけて、深い溜息をついた。それが安堵から来るものなのか、後ろめたさから来るものなのか――。
「キンダイチ先生?」
その時、背後で自分の名を呼ぶ、柔らかな声がした。振り返ると、一人の女性が此方を心配そうに見つめている。
「依頼の人?」
「そうだよ」と一は微笑む。女性もつられて微笑み返した。
「キンダイチ先生は、本当に頼りにされてるんですね」
「そうさ。僕は言わずと知れた、墓場の名探偵だからね」
立ち上がり、女性の手を取る。体温を感じさせない、冷たい手だ。
一は言った。
「……だから心配ないよ、千春」
名前を呼ばれた女性は、安心した面持ちで返事をした。
「ええ、頼りにしています。キンダイチ先生」
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