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「……待ってくれ。俺達はその男に唆されただけなんだ。なぁ、頼むから話を聞いてくれ。急に襲ったりして、悪かった。…頼む。この詫びは必ずする。だから命だけは……」
静かに近付いてくる想矢に向けて必死に命乞いをしていた男は、想矢の歩みが止まらないことを悟り、叫声を上げて玄関に走った。
「たっ……助けてくれっ!!誰かー……」
男が外に出るや否や、その騒々しさが断ち切れた。
(……?)
訝しく思いながらも部屋に残る全ての男達の息を止め、想矢は玄関に目をやる。
そこには数時間前に別れたばかりの与一が立っていた。
逃げ出した男の頭を掴み、身体を引き摺って部屋の中へ投げ入れる。
男はもう息をしていない。
「なんだ与一。忘れ物でもしたか。」
想矢が刀を拭い、鞘に収めながら問い掛けると与一は「ご無事で。」とだけ言った。
想矢は横目で与一を一瞥し、「処分を頼めるか。」と短く訊いた。
「はい。もちろん。お任せ下さい。」と軽く頭を下げて、与一は部屋に転がる男達の死体を外に運び始めた。
外で与一が合図をすると数人の男が音も無く現れ、各々協力して死体を運び出す。
死体の処理を男達に任せ、与一は部屋の掃除をしている想矢に声を掛けた。
「俺も、手伝います。」
想矢は何も言わず、与一に布を投げ渡した。その間、一度も与一に視線を移さない。
与一は想矢から布を受け取ると、満足そうに床に飛び散った血を拭き始めた。
まもなく、夜が明ける。
空が白み始めて、想矢は今日の任務が失敗に終わったことを悟った。
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