玉の枝の呼び声

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 ぼくの見た夢の中の花は、これまでに見たどの花よりも可憐で愛らしく、それでいて力強い気品が漂っていた。まさにこの世のものとはいえぬような、儚くも気高き幻想的な植物は、ぼくを死後の世界へと招いてしまったかと錯覚させた。夢から覚めたぼくは、もっと目の前に残像の残っているあの花のえもいわれぬ香りを嗅いでみたかったし、あのたくましい幹に触れて生命の脈動を感じてみたかったと後悔した。それと同時に、夢のままでよかったと安心している自分もいた。  あのままでは玉のように光るあの実を食べてしまって、アダムとイヴのように楽園を永遠に終われる立場になってしまうかもしれない。ぼくはすんでのところで禁忌を侵さずに済んだのかも。
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