Ⅰ・ヒーローが呼べない、どうしよう

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Ⅰ・ヒーローが呼べない、どうしよう

 昔々、ある世界にヒーローたちを神格化している国、ヘイロー国があった。  この国では、異世界から呼ばれたヒーローたちを神格化しており、この世界にとってどうにもならない事態が及んだ時にのみ、異世界から召喚して力を借りることが許されているという風習があった。  そのため、むやみやたらに召喚されたヒーローたちが摩耗するまでこき使う事は一切許されず、彼らの在り方を一切損なわないように支援することが求められていた。  この世界では、余程の事が無ければヒーローが呼ばれる事は無いものの、人の力では歯が立たず、超常的な力を借りなければどうにもならない案件が起きる事が度々あった。  ある時は古い神が零落した魔王が猛威を振るい、ある時は世界に行き場を無くした魂たちが力の残滓として暴走を始め、またある時は心無い者たちが団結して行った迫害により追われた罪なき弱者たちが「悪魔」へと落とされかかったり……等々。  この世界の者たちのみの力ではどうにもならない事件が起きるたび、ヒーローたちの力を借りて無事解決へと導いていったのである。                ※※※   そうして時は流れ、ある満月の夜、月が銀色に輝いたかと思うと世界の時間がそのまま止まってしまうという事件が起きた。  正確には、全世界の生命たちの時間は止まる事は無かったものの、空は満月の夜空のまま固定されてしまい、太陽が昇る時間が一向に訪れないという現象が世界を覆ったのである。  早速、国王を始めとする重鎮たちは配下たちを世界各地へと放ち、些細なものも含めた情報を一つ残らず集めさせ、配下たちが持ち帰った情報を城勤めの文官たちに解析するように指示を出した。  何日も部屋にカンヅメとなりつつも、文官たちは必死に膨大な数の報告書と命を懸けて取り組み続け、世界の異変の原因になりうるものを探し続け、目に深い隈を刻み付け、言動が矢鱈怪しいものになりつつも、ある一つの結論を見出した。  そうしてレポートにまとめ上げられ、国王へと提出された結果報告は、この世界に属する者が一度も見たことも無い、謎の生物と言いようのないナニカが満月からこの世界へとその手を伸ばし、跳梁跋扈をしているというものだった。  なんとも奇怪としか言いようの無い謎の生命体の対処を求める声に対して国王たちは頭を悩ませ、「今こそヒーロー召喚の儀を求め行う時!」と結論を出した。  この時は、誰もが事件の早期解決を図れると安堵していた。    だが、目論見は脆くも崩れ去った。 「国王陛下、神官たちの召喚に対する拒否の声明をヒーローたちが魔方陣越しに叫んでおります!」  一人の兵士が玉座の間へと報告を運んで来た時、国王は思わず玉座から立ち上がった。 「何!? 何故ヒーロー達は我らの声を聞き届けて下さらないのだ!?」  兵士は脂汗をダラダラと顔中からたれ流しながらヒーローたちの声を国王へと報告していく。 「彼らは、他の世界へと一度召喚されたことがあり、召喚先から言葉に尽くせぬほどの酷使に遭ったものの、それでも元の世界に帰るべく世界を救った途端、召喚先の王族たちから疎まれて殺されかかり、命からがらその世界から元の世界へと逃げ帰って来たとのことです!」 「何と、彼らはそのような目に遭ったのか……」    国王は目を覆った。  我らなら、世界を救う存在たちをそのような目に遭わせないのに……。 「そして、ようやく元の生活に戻れると思ったらまた別の世界に召喚されてはいきなり無理難題を押し付けられ、ヒーローたちがそれをこなせないと突っぱねるや否や能無し扱いのレッテルを貼られて追放処分を受けた上、彼らの復讐を恐れた召喚先の者たちが刺客を放ってヒーローたちを潰そうとしてきたのでやられる前に刺客どもを全て返り討ちにしたとか。そして脱走先で遭遇した『力ある者』との取引の末、世界を救った褒美で元の世界に戻って来たとのことです」  またか……。  かの英雄たちに滅ぼされたという、かの国の力ある者たちにとって、彼らは権力に対する脅威に見えたのか……。  無理難題を押し付けてやり返される位なら、そもそも召喚なんで行わなければいいだけの話ではないか。  情けない話ではあるが、この世界では、召喚された者たちの力が無ければどうにもならない事以外では我らの力で全て解決しておる。  召喚されるヒーローたちの存在は、我らにとってはとても大きいものだからな。世界の運命を左右する程の力を借りる以上、彼らへの働きに対して仇を返すような愚行はとても行う気にもなれぬ。  それゆえに彼らへの手厚い保障を約束しているのに、全く訳が分からないんだが。   「そのお陰で、此方の召喚に対しては、『二度あることは三度ある、一切信じられるか!』と受け入れてくれません」  顔を青色から白色へ染め上げながら、それでも懸命に報告を行う兵士の様子に国王は頭を抱えてしまった。    本当にどうしよう。  他の世界の大馬鹿野郎どもめ。  こっちはマジで世界が滅ぶかもしれない瀬戸際だと言うのに、散々いらん愚行をやらかしてくれたお陰で、ヒーローたちが臍を曲げてしまったではないか。  ヘイロー国ではそれらの不詳事が一切起きないように慎重かつきめ細かな対応を常に心がけてきたというのに、こちら側の立つ瀬が一切無いではないか。    国王は胃があるあたりをさすったのであった。
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