プロローグ

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 真下(ました)は、優しくて笑顔が似合う奴だ。真っ直ぐで素直。人を陥れたり、悪く言う事もない。だから友達が多いのも頷ける話。  塔矢(とうや)は真下と友達として接してきた。男同士なのだからそれで十分だとずっと自分に言い聞かせていたのに。 「塔矢。俺、恋人が出来たんだ」  突然の真下の言葉。塔矢はその言葉に自分の胸がズキンと痛みを感じていることに驚いた。あんなにも言い聞かせたくせに、まだ自分は真下の恋人になりたいと願ってしまっているらしい。 「へぇ。そうなんだ。良かったな」  心にもないことを言うしかなかった。ショックを受けているだなんて自分でも認めたくはない。 「相手はどんな人?」  真下よりも背の低い小柄で可愛らしい女の子か。それとも姉さんタイプの人か。真下が選んだ人が、どんな人なのかとても興味があった。  真下は一瞬迷いを見せたが、「誰にも言うなよ」と前置きをして塔矢を真っ直ぐに見つめてきた。 「一条(いちじょう)だよ。一条(れん)だ。お前も知ってるだろ?」  一条廉は、真下と同じゼミに所属している奴だ。真下から一条の話は聞いたことがある。顔面とスタイルと愛想が良いから、すごくモテるらしい。そして塔矢とも一応顔見知りだ。 「嘘だろ?! だって一条は男——」 「引くか? 引いたよな……」  ものすごく驚いた。よりによって真下の恋人が男だということに。  男同士だから真下とどうこうなんてあり得ないと思っていた前提が呆気なくガラガラと崩れ去る。それと同時に真下には既に男の恋人がいるという事実に胸が苦しくなった。 「でも、マジなんだよ……」  ここは真下の一人暮らしのアパートだし、二人の周囲には誰もいないのに、それでも真下は小声になっている。 「なんでお前にこんな秘密を打ち明けたかっていうと、ちょっと相談にのってもらいたくて……」 「相談?」 「うん……」  真下が気落ちしている。恋人ができたと言う割にはきっとあまりいい目には遭ってないのか。 「塔矢。俺、一条に遊ばれてるだけかもしんない……。恋人だって思ってるのは俺だけかなぁ……」  泣きそうな顔で、ぽつり訴える真下。 「おいっ! その話詳しく聞かせろよ!」  真下を悲しませるなんてその時点で一条は恋人失格だ。塔矢の中に沸々とした怒りが込み上げてくる。  許せない。  絶対に許せねぇ!  俺の大切な真下の恋人になったくせに、何様なんだよ!
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