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ロクサーヌと名探偵
自分は生まれついての探偵である。俺は物心ついた時から、その自覚があった。人が隠したいこと、秘密、なくしたもの、それから罪。ちょっとしたことにいつもすぐに気づき、望むように暴き立てることができる力が幼い頃から備わっていたからだ。
母親の浮気にもすぐに気づいたし、学校で飼っていたウサギを面白半分で殺して埋めた少女が誰なのかもすぐに分かった。それで俺を嫌う人間もいたが、逆に頼ってくる人間も少なくなかったのだった。
ゆえに、大人になった俺が探偵事務所を開くのは必然だっただろう。
しかも俺は、ミステリー小説のごとく“事件”を引き寄せるという謎補正持ちだった。ようは、異様に“警察が介入できない状況で事件に巻き込まれる”ことが多かったのである。
どんな難事件であろうと、俺の手にかかれば犯人を見つけること、トリックを暴くこと、あっという間に解決することができた。やや頭のネジが外れた俺は事件を解くことに快感を覚え、いつしかそれを人生で最上の悦びとしていたのである。
さて、ここからが本題。
俺は、現在ミステリーツアーとやらに招待されて陸の孤島にやってきている。もはや、使い古されたシチュエーションに笑うしかない。
孤島をまるまる買い取った大富豪が主催するツアーであり、そこで彼等一家と使用人が演じる“謎”に参加者が挑み、期日までに解けたら賞金百万円!という企画だった。
ちなみに、その参加者は予選を勝ち抜いた三名。
ミステリー研究会に所属しているという大学生の女性、麻生和歌子。黒髪ロング、眼鏡の美人。
そして、しょっちゅう俺に頼って難事件を解決してきた刑事の神楽坂章一郎。長身痩躯の中年。
こういう場所に、しれっと俺以外に顔なじみの刑事がいるという時点で、フラグだとしか思えない。まあ、俺の“事件引寄せ補正”に含まれている要素なので、今更驚くこともないのだが。
「皆様、よくぞお越しくださいました!」
どっかりと椅子に座って笑顔を浮かべているのは、館の主である牛頭川大吉。この館の主であり、一家の家長である。五十二歳、妻一人子一人。恰幅の良い髭のおじさんであり、なんというか――ミステリーでは一人目か二人目にまず殺されそうなタイプである。大抵、こういう男って裏でなんか危ないビジネスやってきてるんだよな、とミステリー慣れしてしまっている俺は勝手な憶測でアレコレと思う。
「特に今回は、この国誇る名探偵、現代のシャーロック・ホームズとも名高い沢見蓮司さんにもお越し頂いていますのでね、いやあ楽しみです。近くで見ると、なかなか男前じゃないですか。うんうん、思ったよりもずっとお若い方のようですし、是非とも元気よく謎を解いていただきたく!」
「どうも……」
確かに俺はまだ二十代だけど、とうんざりしつつ。絶対に謎なんか解けないだろ!とタカをくくっているのが目に見えている。よほど自分が作るミステリーとやらに自信があるらしい。さながらそれは、ミステリー小説家が“この謎を解いてみろ、どーせ無理に決まってんだろ!”と煽る感覚に近いのかもしれなかった。
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