ロクサーヌと名探偵

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 *** 「そ、それで犯人は誰なの!?」 「おい、誰なんだ犯人は!?」  頭を抱える俺に、和歌子と神楽坂が詰め寄ってくる。俺は何も言えず、呻くしかなかった。  今まで見てきた事件より、ずっと難易度の低い密室トリックだった。そう。  俺が無意識に犯人候補から外した人物が、全ての鍵を握っていたのである。  そう、犯人は。大吉を殺した後、そのまま部屋に鍵をかけて籠城した。  そして、密室が解けたタイミングを見計らって脱出した、それだけだったのである。部屋の中には人が隠れるスペースがいくらでもあったのは、俺が自ら発見した通り。  だが、どこにも人が隠れている様子はなかった。  犯人はどうやって、密室から俺の眼を逃れて脱出したのか?  ここに、一番最初に部屋に入ったのが妻であり、最も容疑がかかっていた人物である恵美子であることに注視したい。彼女の体格、服装は先述した通り。恰幅が良く、背が高く、丸く膨らんだ派手なドレスを着ていた。これは、翌日も同じだったと思って貰って構わない。  彼女が鍵を開けて入り、呆然とした数秒の間に。大柄な彼女のこのスカートにもぐりこんで隠れた人物がいたのだ。その人物が、隠れながら美恵子の足を掴んでいたせいで、そのラメが手に付着し――最終的に、俺のシャツにくっついたというわけである。  こんなことができた人物は、一人しかいない。  恵美子のスカートにもぐりこめるほど小さな少女――瑠璃しか。  その僅か数秒の死角が、犯人を脱出させていた。俺は即座に部屋を探したが、既に実行犯は恵美子のスカートの中なのだから見つかるはずがない。 ――恐らく、不倫に怒った母親に指示されたんだ。  ああ、どうすればいい。こんな真実など、刑事である神楽坂の前で言えるものか。 ――そして、父親を刺殺した。あの慣れたやり方からして、ずっと前から訓練されてたんだ……!  なんて無情な真実なのだろう。たった七歳の女の子が、殺人犯なんて。そんなことをさせる母親がいるなんて。  孤島での、王道の密室殺人は。  今までにないほど、後味の悪いものになってしまったのだった。
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