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「このままだと俺、凍死しちゃうかもしれない……」
「あら……死んだら困りますね……そんなことをしたら店長とのツーショットが拝めなくなる……」
「ツーショット?」
「あっ、いえ、こちらの話です。二十四時間やってるファミレスとかはどうですか?」
「……シャワー浴びたい」
「ネカフェ行けばいいじゃないですか」
「お金がない……。木乃香ちゃん! 何でもするから、三日だけでいいんだ! なんなら一日ワンコインなら払える! 泊めてもらえませんか⁈」
甘えたように首を傾げ、海斗は木乃香の目をじっと見つめた。すると、拒絶し続けていた木乃香も、顎に手を当てて何やら考え始める。
「……何でも、ですか?」
「もちろん! 料理なら得意だから、朝食、お昼のお弁当、夕食は作らせていただきます!」
木乃香は少し悩んだものの、やはり首を横に振る。
「や、やっぱりダメです! ちょっとご飯には惹かれてしまったけど、そもそも私、男の人が苦手なんですよ」
「えっ……そうなの? でもうちの店に来る時は普通だったよ」
「それは眼福と言いますか……欲求を満たすために……あぁ、気にしないでください! とにかくダメです!」
両手を横に振りながらその場を去ろうとする木乃香の両肩を掴むと、彼女はビクッと体を震わせ、困ったように視線を泳がせる。
なるほど、男が苦手というのは本当みたいだ。
「元カレとかでトラウマがあるとか?」
「違いますよ。私女子校出身だし、姉妹だから男性に免疫がないんです」
「そうなの? でも彼氏とかは欲しくない?」
「まぁ……それは……」
恥ずかしそうにそっぽを向いた木乃香の仕草に、海斗は珍しくときめいた。こんなに可愛いんだから、彼女を好きっていう男だっているはずだ。このままじゃそんなチャンスだって逃しかねない。それはもったいない。
「ねぇ木乃香ちゃん、男の免疫つけたいと思わない? もし俺を泊めてくれたら、俺が免疫つけさせてあげようか」
木乃香が否定することを見越して、慌てて彼女の口元に人差し指を立てて塞ぐ。
「もちろん友達として。手は出さない。ちょっと触るとかはあるけど、いやらしいものでないと誓うし、宿泊代もワンコインだけど一応払う。どうかな?」
明らかに木乃香が戸惑っているのがわかる。ただ海斗の中の小悪魔が、もう一押しだと囁いていた。
「……その代わり、私が寝るロフトは立ち入り禁止です。ソファか床で寝てもらいます」
「問題なし」
そこまで話すと、木乃香はようやく笑顔を見せる。
「わかりました。ちゃんと約束は守ってくださいよ」
「もちろん。じゃあ手始めに……」
海斗は木乃香の手を握った。その瞬間、木乃香は目を見開いて、顔を真っ赤にして固まる。
その初々しい反応に海斗の胸が大きく高鳴った。ちょっと待て。俺の方がドキドキするなんてあり得ないだろう。
「やっぱりちょっと恥ずかしい……。と、とりあえず行きましょうか」
「う、うん……」
おかしいぞ。なんだこれ。たぶん今まで関わったことのないタイプの子の、可愛い反応が新鮮なだけだ。海斗はそう自分に言い聞かせた。
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