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「だ、だから! 今は俺が木乃香ちゃんに男の免疫をつけさせてるところで……」
モゾモゾ話す海斗を見て、木乃香は手をポンと叩く。
「わかった! 犬飼さんってば、本当に噂通りのワンコさんだったんですね」
海斗はそう言われ、眉根を寄せる。
「……ワンコ? 何のこと?」
「犬飼さんが働くお店、店員が皆さんイケメンって言われてて。まぁだから私も通ってますが、ワイルドな店長さん、クールな料理長さん、そして人懐っこいワンコな見習いさん」
「なるほど、犬飼だからか」
「まぁそれもあると思いますが……うふふ、犬飼さんが妬いてくれるなんて、飼い主として本望です」
「はっ……? 誰が飼い主?」
「えっ、私です」
海斗は時が止まったかのように固まる。俺、木乃香ちゃんのペットってことか?
「あれ? 違いました? うちに泊まってるし、てっきりペット気分なのかと……」
「ち、違うでしょ! 俺の方が年上だし! じゃあ聞くけど、なんで店長見て赤くなったの⁈」
「あぁ、つい妄想しちゃいました」
そしてうっとりと目を閉じる。
「抱きしめられるってこんな感じなんだ〜って思ったら、つい犬飼さんが店長に抱きつく妄想をしてしまい……そしたら思わず顔がにやけちゃったと言いますか……」
「……ちょっと待って。それってつまり……」
「店長と犬飼さんのBLドラマを脳内再生してました」
海斗は一瞬、時が止まった。あぁ、なるほど……。木乃香ちゃんは俗に言う腐女子だったわけか。あぁ、なんだ、そうか……店長を好きなわけじゃなかったんだ……良かった。
「皆さんイケメンだから、想像しやすいんですよ。見ているだけで目の保養になるし。ついドキドキしちゃ……!」
木乃香の言葉を遮るように、海斗は彼女を壁側に押し付ける。
「じゃあ飼い主なら責任とってよ。木乃香ちゃんが他の男を見てるって思ったら、嫉妬した。俺だけを見てくれないと、飼い主に齧り付いて離してあげないから」
「えっ、ちょ、そ、それってどういう意味?」
「だから、責任とって俺の彼女になってっていうこと。わかった?」
木乃香は顔を真っ赤にして、その場にへたり込む。
「そうだよ。木乃香が好きだ。俺をこんなふうにしたのは木乃香なんだからね」
「わ、私?」
「嫉妬深くて、甘えたくて……だからちゃんと受け止めて。こんなこと、木乃香にしか言わないからね」
「……私にしか?」
「そう。だから俺も木乃香に初めてのことをいろいろ教えてあげる。彼氏じゃなきゃ出来ないことをたっぷりね。だから付き合うって言って……」
木乃香の肩に顔を埋めているため、彼の顔は見えない。木乃香は小さく笑って、海斗の頭を撫でる。
「……海斗くん、先に言っておくけど、私BL大好き女子だよ」
「いいよ、それもひっくるめて木乃香でしょ? でも一番は俺じゃなきゃ嫌だ」
木乃香は嬉しそうに微笑む。
「でも、なるべくゆっくり進んで。私、全部初めてだから」
「了解」
二人は笑い合うと、揃ってお腹が鳴る。
「今日はカレーを作ったの。一緒に食べよう」
「うん、いい匂いがすると思った」
海斗は木乃香の笑顔にほっこりしながら、部屋の中へと入っていった。
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