1 プロローグ

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1 プロローグ

 キミ(高校1年、性別は自由)は迷っていた。  全身全霊をかけて挑んだ高校受験の結果進学したのは、めでたいことに第一志望の私立和久(わく)学園高等学校だった。  入学式から日もたち、なんとなくクラスの人の顔と名前が一致し始めたころ、高校生活を大きく左右するであろうイベントがやってきた。  部活動体験である。しかし。  特にやりたいことがない。  偏差値を気にして入った高校なので、そもそも高校生活に関する知識が一切ない。中学の時にやっていたテニスは、そこで燃え尽きてしまった。  そして、部活動紹介のパンフレットとにらめっこしながら教室で1人考え込んでいるうちに、クラスメートたちはそれぞれ興味を持った部活動の体験に向かってしまったのだった。  1人取り残されたことに気づいたキミは、仕方なくリュックを背負って、パンフ片手に教室を出る。 「おーいそこのキミー」  ふいに声がして振り向くと、少し離れたところで、窓から差し込む日光に照らされて、1人の男子がこちらに向かって手を振っていた。逆光でよく見えないが、目を凝らすとその隣には、もう1人男子と、女子が1人。  上履きのラインの色は、3人ともキミと同じ赤。おそらく1年生だ。でも顔に見覚えはないので、他のクラスなんだろう。  なんてぼんやり考えていると、 「そんなとこで何してるんだー?」  さっきの男子がまた話しかけてきた。 「もしかして、部活動体験でどこ行くか考えていたら、おいていかれたのかー?」  図星だ。 「やっぱそうか。んじゃ、こっちこいよ。俺たちについてきなー」  そういって彼は、ニカっと笑った。 「俺、大山竜也(おおやまたつや)。3組だ。んでこっちが」 「岸田茉優(きしだまゆ)、5組です。よろしくね」  廊下を歩く間に、自己紹介をすることになった。  さっき呼び掛けてきた彼――竜也は、いかにもスポーツ少年という見た目だった。気さくな印象を受けた。  隣にいた女子――茉優は、優しい印象。髪は低いところでゆるくツインのおだんごになっている。 「俺と岸田は同じ中学出身なんだ」 「委員会を一緒にやってたことがあってね、まあまあ話す仲なの」  なるほど。クラスが違うのに打ち解けているわけだ。 「どこ行くか迷ってたら、大山くんが話しかけてくれてね。てっきり大山くんはまたサッカー続けるもんだと思っていたんだけど、違うっていうからついてきてみたってわけ」 「そしてこっちは蒼樹」  竜也に言われて、もう1人の男子が軽く頭を下げた。 「む、武藤蒼樹(むとうそうき)、6組です」  少しおどおどしている彼――蒼樹。 「蒼樹は中学が一緒ってわけじゃない。キミと同じように教室に取り残されていたところを拾ったんだ」  竜也は茶化すように言った。 「ははは……、つい考えこんじゃって。でも、なんか助かったよ」  蒼樹はポリポリと頭をかいた。 「んじゃ、次キミ。自己紹介よろしく」  竜也に言われて、キミは名前とクラスを簡単に伝えた(ちなみにキミは1組)。 「それで、大山くん。私たちどこに向かってるの?」  茉優が竜也に、もっともな質問を投げかけた。  そういえばノリでついてはきたが、どこの部活体験に行こうとしているかまではきいていなかった。 「それはだな……」  竜也が得意げに笑う。 「俺がこの学校に入る前からずっとここに入るって決めていた部活(トコ)だ。」  竜也はずんずん校舎の奥に進んでいく。階段を上り、歩き、また上り、歩き、今度は下り、歩き、……。(……迷っているとかではない、と思いたい。)  そして竜也が立ち止まる。 「ここがその部の部室だ」  前を見ると、扉にはこう書いてあった。 『遊部(あそぶ)』  ……あそぶ? ききなれない名前だ。部活動パンフレットに、そんな部活書いてあっただろうか。 「あるじゃねーかよ、ここに」  そういって竜也が、パンフレットの端っこのほうを指さす。  ちっさ! なんだか穴場感がすごい。 「ほら、入るぞー」  竜也は待ちに待ったという感じで、ノックをしてからギーっとドアを開けた。  キミたちは、後に続く。    2へすすむ  https://estar.jp/novels/25961063/viewer?page=2
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