朝陽姫 (前世)

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「おぉ~い!ひぃ様~!!!」  まだ薄暗いヒンヤリとして綺麗な空気の朝方。早起きした朝のこのモヤッとしつつも澄んだ空気が好きだ。  庭先に出て伸びをし深呼吸すると気分があらたになる。聞こえきたあいつのけたたましい声はこの際聞こえてない事にしようか。 「ひぃ様ひぃ様ひぃ様!!!」 「起きてるよ。勇飛(ゆうひ)うるさい。こんな朝っぱらから大声出すな」 どたばた走りながら間近まで来て大声で呼ぶ勇飛の頬を横に引っ張ってやった。 「みーーーー、返事しないからむゆーびょーかと思って起こそうとしただけなのにーー」 「私だって綺麗な空気の中で静かにしていたかっただけだよ」 「綺麗な空気か。俺も吸う。スーーハー、スーーハー、げほっ」 バカが空気を吸いすぎてむせた。頬から手を離して少しだけ背中をさすってやる。 「で、朝からどうした?」 「ひぃ様、、、髪綺麗だ。結ってキリッとしてるひぃ様も綺麗だけど、寝起きで全然結わえてない髪も好き」 会話をすることを忘れたらしい勇飛は僕の髪をすくって遊びだした。  サラサラ~サラサラ~♪鼻唄でも歌うかのようにサラサラ言いながらすくっては、おまけとばかりに一束手にとっては口づける。  こいつは、僕が男なのをたまに忘れるらしい。そんな事されてたまにドキドキしてしまう僕も僕なのだが。   朝陽はすくすくと成長し、15歳になった。同じ月に産まれた双子の真田勇飛と飛和(とわ)とはずっと仲が良く、三人一緒に育ったと言っても過言ではない。  勇飛は元気が良く外を駆け回ったり、馬に乗るのが得意だ。剣術も三人の中どころかこの領地内では5本の指に入る。飛和は動く事よりは勉強の方に興味を示す物静かな弟だ。  そして二人とも姫は実は性別男であるという事実を知っている。そのはずなのに、勇飛の方はたまに男という事実を忘れるんだか、「ひぃ様綺麗」「ひぃ様大好き」と、山に行っては虫だの山の花を取ってきて朝陽にプレゼントするのだった。 「今日もなんか取ってきくれたの?」 どうせそうだろうなと思いつつも、つい聞いてしまった。 「そうそう、見てよ。じゃーーーん!なんだか分からないけど綺麗な虫ー。綺麗でひぃ様みたいだと思ってさ」 「綺麗はいいけど…私の事虫扱いしないでくれない?」 「虫扱い?綺麗なものはひぃ様に似てるなと思って」 おかしかった?みたいなキュルンキュルンした子犬のような目で見られると、弱い。 「綺麗って言うならいっか。ありがとうね、勇飛。私が虫触れないのは知ってるよね?私の部屋の虫かごに入れといて、世話も勇飛がするのよ?」 「うん、分かってる。見つからないようにこっそり入るから大丈夫だよ」  そう。すでに16歳になってる僕の部屋、建前上女性の僕の部屋に、幼馴染みだろうと男性の勇飛が入るのはいけない事なのだ。  最も勇飛のこっそりなんてたかが知れてるから、見逃してくれてる人たちもいるんだけど、こいつは全く分かってない。
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