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「ひぃ様」
「……………」
「ひぃ様ってば」
「………………」
「そろそろ口きいてよ。ひぃ様と話せないと死んじゃうんだよ、俺」
剣の稽古が終わり、母屋の廊下を歩きながら自室に戻ろうとしたら勇飛がついてきた。
「……死んじゃうとか簡単に言わないでよ!」
「あっ!あーあーあー、ごめん!ほんとごめん!ひぃ様、もう言わないから」
4つ離れて産まれた妹が、流行り病にかかり、天国にいってしまってから、朝陽は軽々しく『死』を口にされるのが嫌いだった。
妹の病に効く薬はこの時代になかった。
幼い妹の抵抗力に頼るのみ、神にすがるのみ。まだ小さい朝陽も出来るだけ寝ないで妹について頑張って看病したのに、妹は連れていかれてしまった。
あの時から朝陽は神という存在を信じてはいない。
初めての妹。自分についてきて、口が達者でない頃から「ひーたま」と呼んでくれたあの可愛らしい声。朝陽の近くにはいつも勇飛がいたから、勇飛だけの呼び方である『ひぃ様』で覚えてくれた愛しい存在。
最期は苦しそうな声しか聞こえなかった。 『死』は怖い。
勇飛にまで置いていかれたら、自分はどうなってしまうか分からない。
多分、普段そこまで顔を会わせなくなったお母様よりも、勇飛と飛和がいなくなったら僕は…。
「ひぃ様?」
「分かった。今朝の事は水に流すから、もう触らないでよ?」
「ありがとう!気をつけてみる」
気をつける…か。勇飛もその時は反省してるんだよね。
僕もそこまでは怒ってないけど、なんだか複雑な気分でね。
女だと思われて綺麗綺麗誉められるのは、僕の内面はどうでもいい…みたいにね、思われてるのかなって思ってしまうよ。自分がめんどくさいなぁ。
良かった、良かったと小躍りする勇飛を見て、嬉しいようなやっぱり複雑なような。
くるりと振り向き首だけでなくしっかりと勇飛を見る。
「勇飛、私ひとまず部屋に入るから、ここまで、ね」
「分かったよ、また後でね、ひぃ様」
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