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引き戸を開けて、部屋に入り一息つく。
「ひぃ様」
小声で窓の外からついさっき別れた声がする。
「いらっしゃい」
みんなにバレないように、廊下からではなく窓の外から入ってくるのがいつも勇飛だけの出入口だ。
お猿のように毎朝山を駆け回ってる勇飛の身は軽く、窓を開けると開けた部分に片手をかけ、ヒョイっと飛んで入ってくる。
飛んでる瞬間に履き物は手に持つという離れ業まで難なくこなす。
「呼んだよね?」
勇飛の方をちゃんと見て、語尾の最後を離して「ねっ」だけ言うときは、そのまま勇飛に部屋に寄っていってほしい時だ。
全く、姫として育てられたせいで煩わしい時もある。
普通に男同士として外で駆け回ったり、誰にもなにも言われず堂々と部屋で話し合えたら出来たらどんなに楽しかったろう。
男として生活していたら跡目争いだので、もっと大変だったんだろうけど。どちらにしろこんな身分に産まれてしまったが為の不便もあるが、裕福で困らないという有難い面ももちろんある。自由に、誰とでも交流できたり恋愛できる時代がそのうち来るのだろうか。そんな時代に産まれていたらなぁ。
「そうそう、勇飛。ここの虫、少し減らしてくれない?」
「えぇ?もういらない?」
「いらないとか、勇飛がくれるのが迷惑とかじゃなくて、この子達狭い虫かごで一生終えるの可哀想だなと思って。放してあげようよ」
僕と虫かごを代わる代わる見る勇飛。
「そっか。そうだよね。やっぱりひぃ様は綺麗だな」
「なんでそこに繋がるの?」
「心が綺麗じゃん」
「えっ?」
「えっ?」
「ねぇ勇飛。もしかしてなんだけど、いつも綺麗って言ってくれるのって、内面てこと?」
「内面も見た目もだよ」
「なんでその時々でどっちか言わないの?」
「必要だった?どっちにしろ両方綺麗だから、わざわざ言う必要ないと思ってた」
身体中の血液という血液が顔と頭に集まってきてる気がする。
見た目だけ言われてるんだとばかり思ってた。どうしよう。そんなの、言われたら嬉しいに、ううん、困る。
僕は姫という立場。
勇飛は幼馴染みではあるけど、僕のお付きの者。
その上同性。
こんな感情は早く閉じ込めてしまわなければならない。
勇飛に気づかれる前に。いや、勇飛よりも鋭い、飛和に気づかれる前に。
お母様にも知られちゃいけない。この気持ちは自分の中だけに閉じ込めておかなくては。
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