第一章 drizzle byアズマ

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第一章 drizzle byアズマ

その日は朝からずっと雨だった。灰色の分厚い雲はお日様を隠し、地上には絶え間なく雨粒が降り注いでいた。 「やっぱりモスドナルドは最高だな」 目の前に座る啓太は、手のひらにおさまりきらない大きなハンバーガーを、満面の笑みで食べていた。少しぽっちゃりとした彼は、何を食べても様になる。 啓太はハンバーガーが大好物だ。駅前にあるこのハンバーガー屋には、週に一回は来ている。私もこの店のモックフルーリーが大好きで、大学の講義が終わった後、二人で来ることもしばしばだ。 「どうしたの。あんまり食欲ないの?」 啓太が、口の端にパティの粒をつけたまま言った。普段であれば、そんなお茶目な姿を見れば、クスリと笑ってしまうところだろう。 「うん、大丈夫」 私は絞り出すように答えた。その声は、少し震えてしまった。 啓太は不思議そうな表情をしながらも、残りのハンバーガーをもぐもぐと食べ始めた。 私と啓太が付き合い始めたのは、ほんの三か月前だ。大学の学部が同じで、通学の電車も同じ路線、頻繁に顔を合わせる中で食べ物の好みが同じことを知り、二人で食事に行くことが続いた。三回目の食事の時に、彼から告白された。 私は二つ返事でその告白を承諾した。そこからもデートを何回も重ねた。彼の食べる姿は、見ていて飽きることがなかった。ケンカをすることもなく、彼との交際は順風満帆だった。はずだった。 そう、今日もいつものデートと同じ。幸せいっぱいの表情で食事をする啓太、よれよれのTシャツも、少し跳ねた後ろ髪も、いつも通りだ。そう、おかしいのはたった一つだけ、一昨日に死んだはずの啓太が、なぜここにいるのかということだ。
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