第二章 shower by池田春哉

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第二章 shower by池田春哉

 一昨日も雨が降っていた。朝のニュースでは一日中曇りと言っていたはずなのに夕方から急に土砂降りだ。もうあの番組は見ないぞ、と私はコンビニで買ったビニール傘を広げながら心に決めた。 「雨、好きなんだよね」  隣で同じビニール傘を開いた啓太は空を見上げながら言った。彼が食べ物以外をはっきり好きだと言うのはなかなか珍しい。 「えーどこがいいの? 歩きにくいし服は濡れるしさあ」 「うーん、なんかいい匂いしない?」 「え、そうかなあ」 「あと今日香(きょうか)をご飯に誘いやすい」  にやりと笑う啓太。たしかに雨の日は私の所属する晴天研究サークルは休みなので、彼と帰る時間が重なることが多い。やっぱり食べ物か、と苦笑する。  それから私たちは「じゃあ駅前の中華とかどう?」「あり」と中華料理屋さんでご飯を食べて帰った。店を出る頃には雨は上がっていて「夕立だったのかもね」と二人揃って傘を忘れた。  そして次の日。  啓太は帰り道にある神社の階段から転がり落ちて亡くなった、と連絡を受けた。どうやら雨に濡れた階段で足を滑らせたらしい。  それ以来、私は雨が嫌いになった。  ――啓太は死んだ。実際に見たわけじゃないけれど、そんな最低な嘘を吐くような人は私の周りにはいない。  じゃあ、どうして彼は目の前でハンバーガーを頬張ってるんだろう。   「モスドってほんと美味しいよな。僕、最後の晩餐はモスドって決めてるんだ」  君の最後の晩餐はゴマ団子だよ。  そんな軽口を叩いていいものか迷う。そもそも彼は自分が一度死んだということを知ってるんだろうか。  訊こうとして、躊躇した。もし知らなかったとしたら、それを教えてもいいんだろうか。  実は君は死んでるんだよ、なんて簡単に受け入れられるものだろうか。 「……ねえ啓太、昨日の晩御飯はなんだった?」    迷いに迷った私はまず探りを入れてみることにした。これで彼が自身の存在への違和感、もしくは疑問でも抱いてくれればそれでいい。 「昨日? 昨日の晩御飯は中華だよ。忘れちゃったの?」  彼は口の端にソースをつけながら言った。どうやら死んでいた間の記憶はすっぽり抜け落ちているらしい。 「……ああ、そうだったね」 「そういえばあの店に傘忘れちゃったんだよな。あとで取りに行こうか」 「そうね。まだあるといいけど」  私は答えを返しながらモックフルーリーに口をつける。アイスはすっかり溶けて、ぬるりとした液体になっていた。それを飲み込みながら私は一昨日の別れ際を思い出す。  よく見る中華料理屋。人通りのまばらな駅前。雨上がりの濡れた地面。手を振る啓太。一昨日の光景が頭の中に蘇っては消えて――。  あれ?  私はひとつの違和感に気付く。  啓太の帰り道に、神社なんかあったっけ。
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