闇の剣士 剣弥兵衛 魔王殲滅(七)

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 この後は、一党が最初に着いた合図、魔王が着いた合図、それに一党が集まる場所に仕掛ける時点、闇の剣士のそれぞれの配置などを話し合い、源四郎と太平が山裾へと下って行った。  日が比良の山嶺に沈み夕闇が辺りに迫る頃、既に暗くなっている山裾からほのかな明かりが点滅した。 「おっ、漸く一団が来たようどす」  頂から山裾を見ていた清玄が、目敏く源四郎からの合図を見つけた。 「やはり毘沙さんの見込み通りですな」  九十郎が落ち着いて答えている。 「さて、これから一団が頂の戌亥(北西)の面に集まってくれるか。これは見物ですな」  これから暗くなると、毘沙がここに仕掛けを準備すると言う。それは闇の剣士全てに課せられた、物の具を手にするのは闇の中からと言う仕来りからである。 「それでは戌亥の面に行きましょうか」  弥兵衛は、清玄と九十郎を促した。  すっかりと暮れてしまった戌亥の面に着くと、毘沙のみが彷徨いており呉作の姿が見えない。 「呉作さんは、何処かへ行きましたか」  弥兵衛は、毘沙に問い掛けた。 「あー、呉作さんは、薬草取りになって初めに来る一団を、ここへ案内するんじゃ」 「ほー、そうですか。なかなか手堅い策ですな」 「そのぐらいは、考えとかなあきまへんな。それで今から闇星の風弾を放つ筒を呼び出します」 「闇星の風弾を放つ筒とは、如何なるものですか」  九十郎が、直ぐさま問うている。 「それは弥兵衛さんならご存じと思いますが、闇星の剣を振るえば星が光る様な風が起こります。その風を闇星の風弾として筒で放つのじゃが」 「その威力は、どれ程になりますか」  興味を抱いた弥兵衛は、聞いている。 「有効な隔たりは、一丁から二丁の間になり、近すぎると死に至るが、この間であれば体が飛ばされる衝撃を受けるのじゃ。普通の者であれば戦う気力を失い、そこで抗う者だけが我らと戦うことになる。それに、その者が纏まろうとすれば、源四郎さんと太平さんが仕掛けるはずじゃ。ただ、魔王を守る者どもには、気をつけなければならぬ。それに、魔王の技は判らぬ」 「よく判りました」  毘沙が跪いて不動明王の真言を唱え始めた。ここにいる四人も、同じように真言を唱えている。その四人が、それぞれの物の具を手にした後、毘沙の前には三基の筒が並んでいた。更に、筒の横には小袋が六つ、添えられている。 「この平地の正面には人の背丈程の丘があり、そこに魔王が居座るのは目に見えている。しかし、その向こうは急な坂になっているが、一党にとっての都合はこの方がいいのじゃ。それは糠の香りが田畑へ広がりやすくなるからで、それに誘われて天魔が一気に流れ込むことになる」  確かに、ここの平地は毘沙が言う様に南西に開け、その際には小高い丘があって、その上からは見晴らしが好い。その丘から向こうは、急激な坂が麓へ落ち込んでいた。平地は二、三丁四方程の広さがあり、周りは藪が囲っている。 「この筒は一回限りの木筒じゃ。色柄の小袋は星の光を出す火薬で、無地の小袋は爆風を起こす火薬じゃ。筒底に無地の小袋の火薬を入れ、その上に色柄の火薬を詰めることになる。発射には、筒底に開いている小穴から火縄を通し、筒底の火薬に点火するのじゃ」 「使い方は判ったが、何処から放つことになる」  興味が湧いて来たのか、九十郎が身を乗り出している。 「あの丘の正面の藪と左右の藪に隠し置く。弥兵衛さん、九十郎さん、清玄さんに、放ちを任せます。それは魔王があの丘に登った時で、合図は忍びの声で伝えます」 「備前、備後で親しくしていた闇の剣士が、この一団に倒されております。その弔いの火花を、ここに咲かせたいとも思っております」  九十郎が無念を籠めて話すと、他の者も頷いていた。
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