闇の剣士 剣弥兵衛 魔王殲滅(七)

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 伊吹山の麓から姉川に沿って西へ向かい、かつて浅井と織田が戦った戦場辺りで北へ進むと、間もなく小谷山となる。谷を挟んで二つの尾根が突き出ているが、尾根が合わさる辺りが大嶽城になり、小谷城は向かって右の尾根にあった。 夜半を過ぎた頃、弥兵衛らは、その様な城跡の右の尾根の麓に着いた。 「この尾根を登ると、幾つかの出丸があって小谷城の本丸跡へ続いとるんどす」  源四郎が、話している。 「伊吹山では、我らが一党を待っておったが、ここでは逆です。毘沙さんは、何か良い策がありますか」  九十郎が、思案顔で毘沙に聞いた。 「ここに来るまで、ずっと考えてましたが、如何に見張りを始末するかじゃ。それと言うのも、魔王の狙いは飽くまで魔天を誘うことで、北斗の陣に必要な人数を考えれば、ほとんどの者がこれに掛かることになる。しかも、我らがここを見定めるか否かも知れず、見張りの人数は少ないはずじゃ。それも、尾根の三方向ともなれば一人ずつがやっとじゃろう。そこで、一方向の見張りを始末すれば、一気に城跡へ進めることになる」 「なるほど。その通りと思います。だが、城跡に辿り着いた時には、如何に魔王と対するのですか」  九十郎が、尚も問い掛けている。 「この残りの集団は、闇星の風弾を避けた様に、なかなか手強い者どもじゃ。しかも、闇星と星雲の剣から旋風を起こす技を使うには、これらの者をことごとく倒し魔王と対峙する形を作らなければ使えない。それは、邪魔者がおれば効力が減り、天魔まで届き難くなるからじゃ」 「ならば、一人一人を始末していくしかないと言われるか」 「そう言うことじゃが、そこには魔王その者が仕掛けて来ることも考えておかねばならぬ」 「要するに、魔王と他の者を分断すれば良いと言うことだ」  毘沙と九十郎の話に、弥兵衛は口を挟んだ。 「その通りじゃ」 「ならば北斗の陣と魔王が居座る北辰の間には、北斗の配置で柄杓の先端からその五倍の隔たりがありましたな」 「おう、そうじゃ。そこを突くことが出来れば分断が可能じゃ」 「それには尾根の先からでは無く、尾根の横から登り、北斗の陣の柄杓の先に出ることです」 「判りました。そこに至れば、私と弥兵衛さんが魔王と対峙し、他の五人の方は北斗の陣にいる者どもの始末を願います」  一同が頷くのを認めた毘沙が、更に言葉を継ぎ足した。 「それでは谷に入り、尾根の横合いから登りますが、ここにいるはずの見張りの始末を頼まねばなりません」 「多数で行くと見つかり易くなるのどしたら、先ずはうちが行って片付けますさかい」  状況を飲み込んでいる源四郎が言うと、さすがは伊賀の忍びとの賛意が漏れていた。  先行した源四郎を追う様に、一同が谷間を進んでいる。小谷城本丸跡への登り口を、梢に白布を縛り付けて源四郎が残していた。しばし、ここで待っていると、坂道を滑る様に下って来た源四郎が言った。 「仰る通り見張りは一人どした。しかし、息の潜め方に持っていた棒手裏剣を見ても、此奴は忍びどした。それに、伊吹山で厳学らを倒したのも棒手裏剣で、あの急坂を滑り降りるのは、忍びの技どす。そやさかい、魔王を守る輩は、忍びの集まりと考えなあきまへん」 「忍びの使う物の具とは何ですか」  九十郎が問うている。 「やはり、手裏剣どす」 「飛び道具ですか」  九十郎が溜息をついている。 「そうどすけど、これには先に間合いを詰めることが大事どして、隔てた者には、うちの十字手裏剣と太平さんの弓で対しますさかい」 「判りました」
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