今日から僕は小説を書く

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 本当に今書いているこの話は面白いのか?  次の日になって、ちょっとパソコンで遊んで、いざポメラを手元に置いた瞬間、ふと湧き出た疑問。  そうだ、昨日あまり進まなかったのは、ほとんどプロットなどを書いて無かったせいで、いちいち考え込みながら書いていたから。それが一番大きいんじゃないか。  思えば、事前に書きためていたその物語のメモには、舞台となる学園の名前や、異能の名前なんかは事細かに書かれていた。キャラクターだって、こいつはこんな信念で動いて、こんな能力を持っていて……結構、詳しく書き連ねている。  だが、「物語」はほとんど書かれていない。せいぜい、ラストの一番盛り上がるシーンだけ、あらすじ未満の何かがある。  つまり設定しか用意しないで書いていたのだ。それはなかなか進まなくて当たり前だ。  その事実から分かることがある……僕は設定厨だったらしい。物語の設定だけ考えて、どういう物語がそこにあるのかはまるで考えていなかったのだ……。  いや、僕の頭の中では、キャラクターたちがビュンビュン飛び回ってガキンカキンと戦っているのだ。怪しい奴らが、何か知性的な会話をして、主人公たちへの対抗策を練っているのだ。主人公はヒロインとこじゃれた甘酸っぱい恋愛をしているのだ。  だが、それが実際に何をしているのか、僕は書くことが出来ない。試しに、その場面だけ書いてみようとしても、さっぱり台詞が思いつかない。  そこで僕は理解した。僕の頭の中の物語は、あやふやなニュアンスだけで構成されていたのだ。言語化など出来るわけがない。  失敗したな、と思った。だが僕は、自分が一切作家に向いていないという可能性を考えていたわけではない。  失敗したのは題材選びだ。僕の創作案メモの中には、ちゃんと一回は起承転結まで考えているものもある。  高校に通っていた時期に考えたプロットだ。古くて、今の自分の好みに合いそうになかったから選びそびれたが、ちゃんと話の流れを考えているアイデアなら、この僕というだめだめ初心者が最初に書くのにもってこいじゃないか。  無論、今書いている物語をないがしろにするわけじゃない。設定しかないがその設定は緻密で膨大なのだ。捨てるのはもったいない。いつか、僕がちゃんと作家としての技量を身につけてから挑むべき物語だった、ということだ。  ちゃんと、ドラマをすらすらと考えつくようになってから、また書こう。  ……大丈夫だ。確かに、投げ出したようにも見えるが、僕はちゃんと昨日書いていたんだ。今日もこれから書く。続いている、続けられている。無駄にはならない、僕はちゃんと前に進んでいる……精神も問題ない、今この考えがちょっと追い詰められてるやつの思考っぽいなと自嘲出来る程度には平常心だ。  とにかく今日も書こう。  1時間半書いて、1187字だった。  古いプロットだから、当時のことを思い出して書いていたら、久しぶりに当時の妄想が脳内に広がって、ちょくちょく書く手が止まってしまった。まあこれは悲観するようなものではないだろう。  今書いている、ファンタジー世界の冒険者が宇宙人に連れ去られて、スペースオペラの世界で剣と魔法を使ってなんやかんやしていく話は、今プロットを読んでみるとすごく面白い気がした。  これは、書けるぞ! そう確信した。  明日もこれの続きを書くんだ、僕は自分に言い聞かせた。
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