吉秋Side

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 そこで兄がふっと表情を緩める。 「この破片は、もう二度とこのようなことを起こさないように、戒めとして大事に残しておくこと。杏もね」  親切なことにチャック付きの小さな袋を二枚渡してくれたから、おばさんと半分ずつその破片を袋に詰めた。  どこか目立つところに常に置いて、兄の言う通り戒めにしようと思う。  説明の後、診察室の奥にある部屋に通された。  イスに座る吉秋に抱かれてゴローが眠っている。  家にいた時の浅い苦しそうな呼吸とは違い、今は穏やかでゆっくりとした呼吸だ。  お腹がすっきりして、ようやく楽になったのだろう。  よかった……。  涙ぐみそうになるのを奥歯をぐっと噛んで耐える。  ここでわたしが泣き出したら、ゴローがそれを敏感に察知して起きてしまうかもしれない。  ゴローを起こさないように、そっとその場を離れた。
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