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とはいえ吉秋の言う通りで、自宅にひとりっきりでなくてよかったと思う。
もしもひとりだったら、自分のことを責めて一睡もせずに泣き続けただろう。
体は疲れていたけれど、頭が冴えてなかなか寝付けそうになかった。
だから、わたしのほうから吉秋にベッドで一緒に寝て欲しいとお願いした。
「よっちゃん、ごめんね。わたし何の役にも立たなくて。疲れたでしょう?」
ベッドの中で吉秋の腕にすっぽり収まり、今夜のことを思い返して謝罪した。
「何言ってんだよ、あーちゃんが武史のこと連れて来てくれて助かった」
おばさんと同じことを言っている。
「それにさ、武史があーちゃんに『役に立たない』って言ったのは、あいつなりの気遣いなんだよ」
その理由を聞いて納得した。
ゴローが辛そうに処置を受けている姿など見ていられなかっただろう。
ついて行ったところで、ただのお荷物になっていたに違いない。
「にしても、あの言い方はないだろって俺が言っといたから」
石鹸の香りがする吉秋にぎゅうっと抱きしめられる。
「ありがと、よっちゃん」
兄があの場面で吉秋に絶大な信用を寄せて頼ったことも、吉秋がそれに応えるだけの働きを見せたことも、ふたりがこれまで共に過ごしてきた軌跡を思い返せば当然のことで、おじさんが言った通り兄と吉秋はまさに「息ぴったりのコンビ」なのだ。
しかしそこに自分が入る余地が全くないことに、モヤモヤしてしまうこの気持ちは何だろう。
「わたしももっと人から頼られる大人になれるように頑張るから」
決意を口にすると、吉秋はくくっと笑った。
「それは頼もしいな。でも俺にとっても武史にとっても、あーちゃんは守るべき存在なんだよなあ」
親にとっては子供がいくつになっても子供のままとよく言うが、五つ年下の妹もやっぱりそのまま永遠に頼りない存在ということか。
守るべき存在と言われて嬉しくないわけではないが、もどかしさも感じてしまう。
「俺らさ、子供の頃あーちゃんのお母さんにさんざん叱られたからなあ。あーちゃんのこと、しっかり守らないとダメだって」
人様の子にまでトラウマを与えてしまうだなんて、母は何という人間なんだろうか!?
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