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「あーちゃんがブロック飲み込んだ時なんて、どんだけ叱られたか……」
「ちょ、ちょっと待って! なにそれ?」
わたしがブロックを飲み込んだ? そんなこと初耳だ。
驚きのあまり思わず上半身を起こすと、なんだ覚えてないのかと言う吉秋に腕を引かれて再び抱き込められる。
「そっか、あーちゃんあの時まだ2歳だったから覚えてるはずないか。あん時、あーちゃんのお母さん半狂乱だったんだぜ?」
吉秋が肩を揺らして思い出し笑いしている。
わたしが2歳、兄と吉秋が7歳の時の出来事だったらしい。
兄が誕生日プレゼントにもらったブロックの「お城セット」を床に広げて吉秋と遊んでいたところ、わたしが小さなパーツを口に入れて飲み込んでしまったんだとか。
母にそれを報告すると鬼の形相で、
「どうしてちゃんと見ていなかったの! 死んだらどうするの!」
と怒り出し、なんとわたしの両足首を持って逆さ吊りの状態で小児科まで行こうとしたようだ。
それを吉秋のおばさんが
「そんなことしても意味がない、返って危ない」
と止めて、おばさんの運転で小児科へ行ったらしい。
飲み込んだブロックが小さかったため様子を見ようとなり、翌日には無事排泄されて一件落着した。しかし、またわたしが飲み込むといけないからとしばらく「お城セット」は宝田家に預けられ、わたしがいない時にしか遊べなくなったようだ。
わたしはそんな頃から兄たちに迷惑をかけていたのか。
全く知らなかった。
さっき兄がゴローの説明をしてくれたときに「人間の幼児だってそういうことがある」と言いながらこっちを見て、おばさんが大きく頷いていたのは、この時のことを言っていたというわけか。
わたしといる時はいつも仏頂面だった兄だ。
家族ぐるみで出かける時に手を繋いでくれたのも、いつも兄ではなく吉秋だった。
「わたし、随分昔からお兄ちゃんに嫌われていたのかもしれない」
「そんなことないって。ブロックの話もゴローの処置をしながら『そんなことあったよな』って、あいつ笑いながら話して、俺の緊張をほぐしてくれたから」
それは、よっちゃんだからだよ。
そう言いそうになるのをどうにか堪える。
たとえ言ったとしても、きっと吉秋は優しく頭を撫でながら「そんなことないよ」と笑ってくれるのだろうけど。
吉秋に守られてばかりではなくて、肩を並べて堂々と歩けるようになりたい。
無言で頬をすりっと硬い胸に寄せて甘えると吉秋もぎゅうっと抱きしめてくれたのだった。
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