やっぱりゴローが中心

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「だってさあ、あーちゃんの匂いのするベッドで寝てて、エプロン姿のあーちゃんがキスしながら起こしてくれるって、それもう新婚さんだろ。だから、俺らいつの間にか結婚してたんだなって寝ぼけながら思ったんだよ」  香ばしく焼けたししゃもを頭からむしゃむしゃ食べる、上機嫌な吉秋に苦笑する。  おめでたいというか何というか。  それでも、幸せな気分で目が覚めてくれたのなら何よりだ。  朝食の片づけが終わったところで吉秋が着替えるために隣家へ戻り、おばさんから電話がかかってきた。  朝の8時でまだ病院の開院時間ではないが、兄に電話してみたところ来てくれても構わないとのことだったらしい。  おばさんはサンドイッチを差し入れるようだ。  かぶらなくてよかった、おばさんの料理の腕に敵うはずがないもの。  宝田家は朝食がいつもパンだから、差し入れを作るとしたらサンドイッチだろうとの予想が当たった。  わたしはおにぎりを持って行くと告げて、15分後に家の前に集合する約束をした。  おじさんの車に乗せてもらい、ふじた動物病院へ向かう道中で、今回のゴローの処置や入院にかかった費用はわたしが負担すると宣言すると、宝田家一同から即却下されてしまった。 「あーちゃん大丈夫よう、おばさんサンドイッチだけじゃなくてちゃんとお財布も持ってきてるから」  いや、そういうことではなく。 「そうだよ、あーちゃん。おじさんもちゃんとお仕事して稼いでいるから、それぐらいの蓄えはあるからね」  いえいえ、だからそういう意味ではなくっ! 「大体さ、犬の散歩代行って業者に頼むとすげえ高いらしいじゃん。それをあーちゃんに無償でやってもらってるんだから、金のこと言い始めたら俺らがあーちゃんに払わないといけないぐらいだからな?」  よっちゃん何言ってんの! いらないからっ!!  そんなわけで、全く取り合ってもらえなかった。 「だから金の話はもうおしまい。あーちゃんが責任感じることはないし、ゴローが元気になったらまた散歩よろしく」  車の後部座席で隣に座る吉秋が、笑顔で手を握ってくる。  その大きな手を握り返しながら、こくんと頷いた。
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