やっぱりゴローが中心

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 昨晩同様、裏口から出迎えてくれた兄は少し眠たそうな顔をしている。  おばさんの差し入れに、朝食がまだだったから助かると笑う兄に「わたしもおにぎり作って来たよ」と差し出すと、じゃあこっちは昼に食べると受け取ってくれた。  奥から飛び出してきたゴローがすっかり元気な様子で、わたしたちは胸をなでおろした。 「昨晩はあのままぐっすりでした。排泄したそうな雰囲気だったので先程この周りを少し散歩したら、ボールの破片入りの便が出ましたよ。朝食はふやかしたドライフードを少しだけ食べさせました。あと数日、破片入りの便が出ると思います」  兄が説明している間、ゴローが尻尾を振りながらおばさんやわたしの足元にまとわりついて甘えるものだから、吉秋が「コラ、落ち着け」と言ってその体を抱き上げる。 「多分もう大丈夫だと思うのでこのまま退院してもらいますが、今日は消化しやすいエサを少しずつ与えて様子を見てください。散歩は本人が行きたそうにしていれば行っても構いません。万が一また元気がなくなるようなことがあれば、連れて来てください」 「時間外に対応してくれてありがとう武史君。助かったよ」 「お世話になりました。立派な獣医さんになって、何だかおばさんまで誇らしいわ。本当にありがとうね」  おじさんとおばさんから口々にお礼を言われて、兄が少し照れくさそうに笑っている。  昨夜は眠れたのかと聞くと仮眠室で寝たから大丈夫だと言われた。 「馬とか牛のお産の立ち合いで丸2日全く寝られなかったこともあるから、これぐらい全然平気」  体力のいる仕事なのだなと改めて思う。  兄の笑顔をまぶしく思っているところへ、兄のカノジョの玲子さんが出勤してきた。  院内の人の多さと和気あいあいな雰囲気に少々面食らいつつ、可愛らしい笑顔を見せた玲子さんがおずおずと口を開く。 「もしかして、タケちゃんのご家族?」  「違うよ。妹以外は隣に住むご家族」  兄が昨夜の出来事をかいつまんで説明し、もう退院するところだからお会計を、と言っている様子を、わたしは笑いを必死にこらえながら見ていた。  タケちゃん!  お兄ちゃんったら、玲子さんにタケちゃんって呼ばれてるのね!
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