やっぱりゴローが中心

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 いつも喜んで車に乗り込むはずのゴローが、乗車を拒否してリードを咥えている。  ゴローがリードを咥えて催促する素振りを見せるのは、散歩に連れていけというサインだ。  どうやら歩いて帰りたいらしい。 「もし途中で様子がおかしくなったら、俺が抱えて病院まで戻るから大丈夫。歩きたいんだろ、行こうぜ」 「わっふ!」  吉秋がリードを引っ張ると、ゴローが嬉しそうについて行く。  おじさんとおばさんは先に車で帰ってもらうことにして、わたしは吉秋とゴローの後を追った。 「ねぇねぇ、よっちゃん。お兄ちゃん『タケちゃん』って呼ばれてたね。笑いを堪えるのが大変だったよ」    先ほどの玲子さんの「タケちゃん」が耳から離れず思い出し笑いしていると、どういうわけか吉秋が複雑そうな顔をこちらに向ける。 「気づいてる? あーちゃんだって俺のこと『よっちゃん』って呼んでること」  ――――!  そうだった! 子供の頃からずっとそう呼んでいるから違和感もなかったけれど、第三者にとっては「宝田吉秋がよっちゃんと呼ばれている!」と笑い転げることなのかもしれない。 「もしかして、イヤだった!?」  そういえば神木さんたちと焼き鳥屋で食事した時も「よっちゃん、よっちゃん」と連呼したっけ。どうしよう、あの人のことだからあちこちに言いふらして笑い転げていそうだ。 「きっと神木がおんなじように笑ってんだろうなって想像してちょっと複雑になっただけ」  ああ、ほら。やっぱり。  落ち込みそうになったわたしの手を吉秋がぎゅっと握る。 「でもちっともイヤじゃないよ。おじいちゃんとおばあちゃんになってもずっと、あーちゃんに『よっちゃん』って呼ばれたい」 「うん、もちろんそのつもりだよ」  吉秋と見つめ合って笑っていると、ゴローが「ぶふっ!」と不満げに鼻を鳴らし、リードをグイグイ引っ張って早足になった。  その元気そうな様子にまた笑みがこぼれるわたしたちだった。
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